今回は、税金裁判から見る「連帯納付義務」の現状と課題を考察します。※本連載は、みどり総合法律事務所の所長・弁護士の関戸一考氏、同じく弁護士の関戸京子氏の共著、『新・税金裁判ものがたり』(メディアイランド)の中から一部を抜粋し、具体例を題材に、税金裁判の現状と課題を解説します。

代償金を受け取らなくても「連帯納付義務」が発生

(4)連帯納付義務の恐ろしさを知る


この事案においても連帯納付義務の恐ろしさが如実に表れています。その内容を整理しておきます。

 

①長女は1円も代償金を受け取っていないにもかかわらず、5000万円を受け取ったという前提で連帯納付義務の履行を請求されました。

 

長女は当初、申告に際して家族の援助を受けて1800万円の相続税を払いました。もし連帯納付義務の請求が来なかったなら、弟である長男が代償金を支払わなかったことについて、諦めたかもしれません。しかしこの事案では、相続税とは別に3200万円をさらに連帯納付義務者として請求され、途方に暮れたのです。

 

②さらにもう1つあります。更正の請求について、「国税通則法23条2項3号の『やむを得ない事由』は、実体法上の理由だけを指すのであり、連帯納付義務者として請求を受けたことはやむを得ない事由とならない」という考えです。

 

つまり、連帯納付義務を逃れるために遺産分割協議を解除することは、「税金逃れであり、やむを得ない事由とは評価できない」というのです。課税庁はこの考えを強力に主張しており、下級審ではありますが、このような課税庁の考えを認めた判例もあります。

再分割協議の理由は「相続人の支払不能」だったが…

③しかし、長女は不正に税金逃れをしているわけではありません。もらってもいない代償金の限度で連帯納付義務を負っていたものの、長男の支払不能により代償金の履行が不可能となったため、実態に即した内容(つまり、すべて長男が相続する)の遺産分割協議を再度行っただけです。このことが不当な課税逃れとは評価できないはずです。


④長女の更正の請求は、長男の支払不能という法定解除事由とも言うべきやむを得ない事由に基づいて遺産分割協議を合意解除し再分割協議をした結果に基づくもので、当然に認められなければならないものと考えられます(残念ながらこの事例の元になっているケースは1年半以上最高裁で審理されましたが認められませんでした)。


⑤このように、連帯納付義務については十分な注意が必要です。相続にあたり、あるいは贈与にあたり、このような義務が規定されていることを十分に認識した上、しかるべき対策を立てる必要があります。

税法・税務行政が「誠実な税務者」を苦しめる場合も

3 本連載のまとめ

 

本連載で取り上げた贈与税の連帯納付義務の事例と、遺産分割のやり直しの事例は、いずれも実際に起きている事例を基にしています。現在も係属中のものもあり、確定的なことは言えません。現在の税法や税務行政が誠実な税務者を苦しめるものになっていることを広く考えていただきたいと思い、本連載で取り上げました。

 

以下、本連載のまとめを整理しておきます。

 

税金裁判から見えてくる現状と課題


1 相続をめぐる問題(その1ー連帯納付義務)

 

(1)相続税の連帯納付義務をめぐる問題について
(2)贈与税の連帯納付義務をめぐる問題について
(3)連帯納付義務と附帯税(延滞税・加算税)をめぐる問題
(4)国家賠償請求は可能か
(5)改正法でも取り残された贈与税

 

2 相続をめぐる問題(その2ー遺産分割協議をめぐる問題)

 

(1)遺産分割協議と相続税
(2)遺産分割協議の解除について
(3)国税通則法23条2項3号に基づく更正請求は可能か
(4)連帯納付義務の恐ろしさを知る

新・税金裁判ものがたり

新・税金裁判ものがたり

関戸 一考,関戸 京子

メディアイランド

相続税、贈与税、青色申告、認知症、連帯納付義務…税金裁判の専門家が納税者目線で解きほぐす。 弁護士・税理士・税金裁判に興味のある納税者必読!豊富な具体例を題材に、税金裁判の現状と課題を解説します。

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