相続税法の改正により、納税義務者の数が大幅に増加
2 相続をめぐる問題(その2-遺産分割協議をめぐる問題)
相続税法が改正され、平成26年1月1日から発生する相続について非課税枠(3000万円プラス法定相続人1人につき600万円となりました)が大幅に切り下げられました(従前は、5000万円プラス法定相続人1人につき1000万円です)。その結果、相続税の納税義務者の数が大幅に増えたと言われています。
さて、ある程度資産を有する被相続人が死亡した場合に、相続人が複数いるのが普通です。その場合、誰がどの財産をいくらずつ相続するかを決めなければなりません。遺言書がある場合は別ですが、通常は遺産分割協議によって相続財産の取得者を決めることになります。
ここで、遺産分割のやり直しをした結果、取得する財産がなくなった相続人は既に支払った相続税の更正の請求を行って還付を受けることができるのかどうかという問題を考えてみましょう。
相続税の納税義務だけでなく、連帯納付義務も発生
(1)遺産分割協議と相続税
<事案の概要>
父親は広大な土地を所有し、レジャー施設など幅広く経営していました。ところが、バブルの崩壊の後、次第に経営が圧迫されるようになり、レジャー施設の売却先を探すようになりました。
平成6年に父親が死亡し、父親の仕事を承継した長男と別に嫁いだ長女が相続人でした。当時、相続財産のほとんどは土地で、相続税の財産評価価値で10億円でした。遺産分割協議の結果、事業と共に財産すべてを長男が取得することとし、その代わりに代償金5000万円が長女に支払われることになりました。ただし、支払時期は、現在売りに出しているレジャー施設が売れた時とされました。
遺産分割協議が成立した以上、まだ分割協議書に基づいて財産を取得していない相続人である長女も相続税申告時に納税の義務を負うのでしょうか。
<考え方の指針>
遺産分割協議が成立すると、その効果は相続開始に遡ります(民法909)。そのため、成立と同時にそれぞれの相続人が遺産分割協議書記載のとおり財産を取得したとして、相続税が課税されます。
本件事例のように、代償金をまだ受け取っていなくとも、代償金請求権の取得により相続税の納付義務が発生し、代償金請求権の範囲内で利益を取得したものとして連帯納付義務が発生します(相続税法34条1項)。
そのため、相続の申告期限内(相続が発生後10ヵ月以内)に長女は相続税の申告をしなければなりません。