資金の運用先探しに苦しむ地銀、信金
マイナス金利が長引くことで資産運用に困っているのは、なにも個人の投資家だけではありません。
金融機関も昨今の低金利によって、有望な投資先を見つけられずに四苦八苦しています。海外投資による収益に活路を見いだせるメガバンクならまだしも、地銀、信金は今後の見通しに不安を抱いています。
その状況下、国内銀行によるアパートローンの新規貸出額は、2016年4月〜9月の半年間で1兆8915億円に達し、年度ベースで過去最高だった2015年度の3兆2709億円を上回るペースで伸びています。
マイナス金利で収益を上げることが難しくなれば、今後さらにアパートローンの貸出が増えることが考えられます。2016年の3月、日銀は地銀、信金が行うアパートローンに関するレポートを発表しました。
このレポートによると、総貸出額に対する不動産投資向けのローンの割合は、地銀で9.4%、信金で15.8%となっています。とくに信金の不動産投資向けの貸出は、住宅ローンを除けば、他の融資先を抑えて2番目に多い割合です。
さらに2016年9月末時点の不動産投資向けの融資残高は22兆円を超え、新規の貸出だけでなく、融資残高でも7四半期連続で過去最高記録を更新しています。
22兆円というと、横浜銀行と東日本銀行が経営統合した地銀最大規模のコンコルディア・フィナンシャルグループの総資産が約17兆4500億円ですから、いかに大きい貸出なのかよくわかります。
「融資がつきやすい」という理由で投資するのは危険
地銀・信金がアパート融資に躍起になるのも、ほかに有望な運用先がないからです。マイナス金利が地銀の利益に対する影響を考えると、近い将来、地銀平均で約4割も減益になるという試算もあるほどです。そうなると、収益源を失った地銀、信金がさらに不動産への融資を増やすことが考えられます。
ただ、注意したいのが、地銀や信金が融資をするのは地元の収益不動産が中心だということです。賃貸需要の安定している土地で、将来にわたって安定した収入を見込める物件であればよいでしょう。
ところが、すでに人口が減少し将来の賃貸需要が危ぶまれるエリアでの不動産投資は、将来長期の空室で頭を悩ますことになります。金融機関が融資をしてくれたといっても対象となる不動産に太鼓判を押して成功を保証してくれたわけではないのです。
実際、日銀のレポートのなかでも、融資にあたって家賃収入を長期にわたって下落しない前提で考えていたり、シミュレーション期間が短いことによって適切な時期に行う大規模修繕工事費の検討が甘いなど、問題点が指摘されています。
これを受けて、いよいよ金融庁はアパート融資の実態調査を始めました。地方銀行から小規模なアパートを経営する個人を対象とした融資データ一式を集め、2017年の春頃には結果をまとめ、その後の対応を検討するとのことです。
まさに、金融庁からのイエローカードです。安易に地銀・信金で融資を受けて、サブリース契約で地方や郊外にアパートを建てると、将来、不動産経営で行き詰まる可能性が大変高くなります。
甘い審査で融資を受けて不動産投資を実行したとしても最終的な収益の責任はオーナー自身が負います。ローンが払えなくなり、手放さなければいけなくなっても、金融機関がなにかをしてくれるわけではなく、担保価値どおり売れるとも限りません。アパートを手放し、借金だけが手元に残るという状況に陥りかねないのです。
だからこそ重要なのは、融資がつきやすいから、金利が低いからと不動産投資をはじめるのではなく、あくまでも対象となる物件が将来にわたっても安定した収益を上げることができるかどうかを見極めることです。