今回は、空室率が増加しているにも関わらず、アパートが建築され続ける理由を探ります。※本連載では、株式会社日本財託の代表取締役社長である重吉勉氏の著書、『低金利時代の不動産投資で成功する人、失敗する人』(かんき出版)から一部を抜粋し、低金利&過剰融資時代の「正しい不動産投資」の進め方を徹底的に探ります。

神奈川県のアパートの空室率は「36.65%」に・・・

緩和された融資条件を追い風に、賃貸アパートが建ち続けています。そして、空室も急増しています。

 

アットホーム社のデータをもとに、不動産調査会社のタスが空室率の分析データを発表しました。これによると、2016年6月の神奈川県のアパートの空室率は、調査開始以来、過去最高となる36.65%に達しています。およそ3戸に1戸が空室という異常な空室率です。

 

 

アパートの空室が急増している背景には、相続税の改正があります。相続税の節税対策として、とくに郊外でアパートの建築が急増し、空室が増えています。しかも、以下の図表のように2015年の夏から急激に空室が増加しているのです。

 

[図表]2015年夏からアパートの空室率が急上昇

※株式会社タス「賃貸住宅市場レポート」
※株式会社タス「賃貸住宅市場レポート」

 

2015年1月から相続税制が改正され、課税対象から控除される基礎控除額が減額されました。改正前であれば、基礎控除額として5000万円、そして法定相続人1人につき1000万円が控除できました。

 

たとえば、母と子ども2人が財産を引き継ぐ場合、基礎控除額は8000万円となるので、合計8000万円の評価額の財産であれば、相続税はかからなかったのです。

 

しかし、改正により、この控除額が4割も削減されてしまいました。先ほどの事例であれば、控除額は4800万円にまで少なくなってしまったのです。不動産や金融資産を持っている人にとっては、大きな痛手です。

アパート乱立・空室急増に拍車をかける相続税の改正

そこで、相続税を減らすための手段として注目が集まったのがアパート建築です。所有する土地に賃貸用アパートを建てると、相続税評価額を引き下げることができ、結果として相続税を削減することができます。この相続税の圧縮効果を狙って、アパートが次々に建てられたのです。

 

アパートは着工から3〜4か月で竣工します。国土交通省の建築着工統計で、神奈川県のデータを調べてみると、2015年2月では、新規着工数が前年比で50%も増加しています。さらに、翌月の3月も前年比で41%増加しています。春先に着工したアパートが、夏頃から続々と新築として市場に出てきたとすると、空室率の上昇曲線とピタリと一致します。

今後重要になるのは「賃貸需要」の見極め

では今後、アパートの空室率はどのように推移するのでしょうか。国交省の統計で見ても、新規着工数はまだまだ増加傾向にあります。ハウスメーカーは、地方銀行や地元の信用金庫と協力しながら、アパートの新築営業に力を入れています。

 

金融機関がマイナス金利による収益率の悪化で苦しんでいるのは、前回お伝えしたとおりです。そこで、高い利率を確保できる個人向け不動産融資で、利益を上げようとしています。相続税制の改正に加えてマイナス金利が重なり、アパートの建築が止まらないのです。

 

このように、住む部屋はどんどん増えていきますが、人口の増加は追いつきません。首都圏とはいえ、郊外エリアでは人口が減少している市町村も多く存在します。

 

また、一般的に築年数が経つほど、空室は多くなる傾向にあります。家賃が同じ水準であれば、入居者は設備が整った築年が新しい物件を選ぶでしょう。新しいアパートが増えれば、玉突きのように入居者が出ていってしまいます。アパート経営は新築時はよくても、築年が経過すればするほど、ますます厳しくなると考えられます。

 

マイナス金利で運用先がなくて困っているのは、個人も金融機関も同じです。その解決策として、不動産投資に目をつけたところまでも同じでした。

 

 

ただ、ここから先、私たちが考えなければいけないのは、投資先の見極めです。せっかく低金利で千載一遇のチャンスが訪れているのにもかかわらず、将来の空室リスクが予想される場所の収益不動産に融資を受けて投資をしてしまうと、取り返しのつかないことになってしまいます。ただ金融機関を喜ばせるだけで、私たちが将来のリスクを負担することになるのです。

 

将来の賃貸需要を見極めて、有望な立地の不動産に有利な条件で融資を受けて投資をすること。どのような収益不動産に対して融資を受けて投資をするのか、不動産投資で成功するための分岐点はすぐそこにあるのです。

 

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