「契約当初の家賃」が保証され続けるわけではない
一見すると、空室リスクから解放されて、管理の手間がかからないサブリース契約は、オーナーにとってメリットばかりの契約に思えます。しかし、このサブリース契約が今、大きな問題となっているのです。
サブリース契約時には、オーナーから不動産会社が不動産を借り上げる期間と保証家賃金額が定められます。ただし、借り上げ期間中の保証家賃の金額は変わらないわけではありません。サブリース契約を結んだとしても、契約当初の家賃で保証され続けるわけではないのです。
これは国の定める法律でも認められた借主の権利なのです。その根拠となるのが借地借家法です。
そもそも、借地借家法は貸主が強い立場にあるということを前提にしており、借主を保護するために定められています。そのため、条文内においても、「賃料減額請求権」がはっきりと明記されています。
「賃料減額請求権」とは、土地や建物の賃貸借契約において、一方の当事者の意思表示で将来の賃料を増減できる権利のことをいいます。サブリース契約において、この賃料減額請求権の有効性を争う裁判も行われています。その結果、最高裁でもサブリース会社からの借地借家法に基づく賃料減額請求を認めています(最高裁平成15年10月21日判決)。
つまり、これによってサブリース会社の賃料減額にお墨付きが与えられてしまったのです。いくら30年間家賃を保証するといっても、法律に基づいた伝家の宝刀を抜かれてしまっては、こちらは従うしかありません。
たとえ、契約書に「10年間は家賃を固定とする」と記載があったとしても、借主に不利な条件だとして法律に基づき無効になる可能性があるのです。
借地借家法の本来の趣旨は、立場の強い貸主から弱い立場の借主を守るためものです。しかし、サブリース会社と一般のオーナーを比べたときに、どちらの立場が弱いかといえば、アパートを盾に取られている貸主のオーナー側です。サブリース契約に基づく保証家賃は絶対ではないのです。
この保証家賃の引き下げによって、投資用ローンの返済に苦慮するようになり、不動産を手放さざるを得ないような状況が、今実際に起こっているのです。
不動産を売却して、ローンが完済されるのであれば、それはまだよいケースです。ところが、築年数が経過して賃貸需要のほとんどないような地方や郊外のアパートでは、売却価格も安くなるので、不動産を売却してもローンを完済しきれないのです。こうなってしまったら、もうどうすることもできません。
サブリース契約にまつわるトラブルがあまりにも多いことから、監督官庁である国土交通省も動き出し、2016年9月1日から、サブリース契約における保証家賃の減額リスクの説明が義務化されました。今はまだ「賃貸住宅管理業登録制度」に参加する3982社(2016年12月現在)だけのルールとなりますが、これによってサブリース契約のトラブルが減ることが期待されています。
サブリース契約でも「空率リスク」はなくならない
サブリース契約によって、オーナーが空室リスクから解放され、安定した収入が見込めると思うかもしれませんが、空室リスクがまったくなくなったわけではありません。その空室リスクは、サブリース契約の相手である不動産会社が担っているにすぎないのです。
いくら空室を保証してくれるといっても、賃貸需要がない立地で不動産経営をしているという事実は変わりません。築年数が新しいうちは、不動産会社も空室リスクを負担し続けられますが、築年数が経過してくると、その空室リスクは保証家賃の減額という形でオーナーに跳ね返ってくるのです。
構造的な問題である地方の人口減少に伴う賃貸需要の減少に、一民間企業の保証で対抗しようとするのは無理な話です。
不動産投資で長期にわたって安定収入を得るためには、そもそも賃貸需要が少ない場所で不動産経営を行わないことです。賃貸需要の見込める土地であれば、サブリース契約を結ぶ必要もありません。オーナーが直接、入居者と賃貸契約を結んだほうが、収入額も大きくなります。