前回に引き続き、ザ・ウィンザーホテル事件について見ていきます。今回は、「企業が労働裁判に勝つ対策」が今回のテーマです。※本連載は、堀下社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の堀下和紀氏、穴井りゅうじ社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の穴井隆二氏、ブレイス法律事務所所長で弁護士の渡邊直貴氏、神戸三田法律事務所所長で弁護士の兵頭尚氏の共著、『労務管理は負け裁判に学べ!』(労働新聞社)より一部を抜粋し、会社側が負けた労働判例をもとに労務管理のポイントを見ていきます。
固定残業手当分の時間を超えたら「超過分」を支給
2.残業時間数を明示せよ!!
残業時間数を毎月明示することは、労働基準法上当然のことですが、固定残業制度を有効化させるためにも改めてあげておきます。難しいことではなく、毎月の賃金明細書(給与明細書)に残業時間および残業手当の額を記載すればよいのです。当然のことながら、毎月、残業時間を明示するということは、毎月、タイムカード等で時間管理するということになります。ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件では時間管理がなされていませんでしたので、残業時間数の明示もできずに負けていました。
就業規則の規定例ではわざわざ残業時間数を明示するということを規定しています。ここまでする必要はありませんが、啓蒙の意味も込めて記載しています。
3.固定残業手当分の時間を超えたら超えた分を支給せよ!!
固定残業制度を有効化させるために、非常に重要なポイントの1つが、固定残業手当分の時間を超えたらその超過分を支給することです。
ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件の場合や、他の負け判例で共通しているのがこのポイントです。逆をいえば、このポイントを押えていれば、他のポイントを多少外していても固定残業制度が無効になることは考えにくいです。なぜならば、固定残業手当分の時間を超えたら超過分の残業代を支給するためには、固定残業手当に含まれる残業手当を計算し、時間管理を行わなければならないからです。
長時間労働の削減、時間管理の徹底を
4.正攻法(長時間労働の削減、時間管理)を心がけるべし!!
固定残業手当制度を導入する際においても重要なことは、正攻法を心がけることです。具体的には、長時間労働の削減、時間管理を心がけることです。
休憩時間を実態に合わせ規定し、休憩をしっかり取らせることも有効な手段です。実労働時間は拘束時間ではなく、休憩時間を含みません。労働基準法では6時間を超えた場合45 分以上、8時間を超えた場合60分以上の休憩を取ることが定められていますが、それ以上の休憩を取ることを禁止している訳ではありません。拘束時間は長いが、休憩時間を多くとっている場合は、明確に規定し、休憩をしっかり取らせることも大事です。
休憩時間は一部の業種を除いて一斉に取らせることが労働基準法に定められていますので、一斉に休憩を取らない場合には、労使協定を締結することも忘れないでください。
堀下社会保険労務士事務所 所長
社会保険労務士
1971年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。
明治安田生命保険(相)、エッカ石油(株)経営情報室長を経て現職。事前法務で企業防衛を中小企業・大企業に提供し、9年間の社会保険労務士業務において顧問先約250社。指導した企業は1000社を超える。自らもエナジャイズコンサルティング(株)代表取締役、社会保険労務士事務所所長として職員15名を抱え、経営者視点の課題解決法を提供する。講演会多数。
<著書>
『なぜあなたの会社の社員はやる気がないのか?―社員のやる気をUPさせる労務管理の基礎のキソ』 日本法令
『織田社労士・羽柴社労士・徳川弁護士が教える労働トラブル対応55の秘策』 日本法令
『三国志英雄が解決!問題社員ぶった切り四十八手』 日本法令
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載労働トラブルの敗訴判例から学ぶ「労務管理」のポイント
穴井りゅうじ社会保険労務士事務所 所長
社会保険労務士
1972年生まれ。熊本学園大学経済学部卒業。
(株)地域経済センターにて経済記者として多くの経営者に出会い、経営的観点の労働問題の解決策を発見する。弁護士、弁理士、公認会計士、司法書士、税理士など、多くの専門家と幅広い人脈を持ち、経営者の多種多様な問題にも対応している。現在は、労務問題解決コンサルタントとして120社越のクライアント支援に取り組む。また、実践的と評価の高いセミナーなど、自社および経済団体などで年間30回以上行う。
<著書>
『織田社労士・羽柴社労士・徳川弁護士が教える労働トラブル対応55の秘策』日本法令
『三国志英雄が解決!問題社員ぶった切り四十八手』 日本法令
著者プロフィール詳細
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連載労働トラブルの敗訴判例から学ぶ「労務管理」のポイント
ブレイス法律事務所 所長
弁護士
1997年生まれ。大阪府大手前高校、京都大学法学部卒業。弁護士であるほか、税理士資格、メンタルヘルスマネジメントⅠ種を取得。中小企業の法的支援に精力的に取り組み、特に税務を見据えた法的サービス、問題社員対策、メンタルヘルス対策などに定評がある。
<著書>
『織田社労士・羽柴社労士・徳川弁護士が教える労働トラブル対応55の秘策 』日本法令
『三国志英雄が解決!問題社員ぶった切り四十八手』日本法令
著者プロフィール詳細
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連載労働トラブルの敗訴判例から学ぶ「労務管理」のポイント
神戸三田法律事務所 所長
弁護士
1971年生まれ。私立明星高校、慶応義塾大学総合政策学部卒業。大阪にて弁護士登録後、兵庫県丹波市のひまわり基金法律事務所に所長として2年間赴任し、弁護士過疎問題の解消に取り組む。現在は、下請かけこみ寺(財団法人全国中小企業取引振興協会主催)の相談員、兵庫県三田市商工会専門相談員などを行い、中小企業の法的支援に精力的に取り組んでいる。
<著書>
『織田社労士・羽柴社労士・徳川弁護士が教える労働トラブル対応55の秘策』日本法令
『三国志英雄が解決!問題社員ぶった切り四十八手』日本法令
著者プロフィール詳細
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