前回に引き続き、ザ・ウィンザーホテル事件について見ていきます。今回は、「企業が労働裁判に勝つには?」が今回のテーマです。※本連載は、堀下社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の堀下和紀氏、穴井りゅうじ社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の穴井隆二氏、ブレイス法律事務所所長で弁護士の渡邊直貴氏、神戸三田法律事務所所長で弁護士の兵頭尚氏の共著、『労務管理は負け裁判に学べ!』(労働新聞社)より一部を抜粋し、会社側が負けた労働判例をもとに労務管理のポイントを見ていきます。

固定的に支払われる残業手当が「何時間分」かを明示

<勝つために会社は何をすべきか? 社労士のポイント解説>


固定残業手当制度を合法的に事前法務として完成させるために参考になるものが、最高裁判所第一小法廷平成24年3月8日判決に付された櫻井龍子裁判官の補足意見です。3つの要件を満たすことが必要としています。


1.毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば10時間分)の残業手当が算入されている旨が雇用契約上明確にされている

 

2.支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されている

 

3.1の一定時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにしている

 

この3つの要件を押えたうえで、固定残業制度の事前法務を考えましょう。


1.「○時間相当」と明示せよ!!


もっとも重要なことは、固定的に支払われる残業手当が何時間分であるかを明示することです。


雇用契約上明確にするということは、雇用契約書で定めるか、または、就業規則で定めることになります。


就業規則の規定例は、以下のとおりです。

 

[図表1]就業規則の規定例パターン1

[図表2]就業規則の規定例パターン2

労働基準法で規定される時間外労働の上限は月間45時間

固定残業制度を導入するうえでもっとも大事な考え方の1つが、固定残業手当に含まれる残業時間が何時間であるかを労働基準法に従って計算することです。固定残業制度を導入してもこの計算が間違っていると制度全体を否定される可能性があります。必ず専門家に相談されることを強くお勧めします。


固定残業手当という名称についても、就業規則で定義すればよいだけですので、職務手当や営業手当など自由に定義して構いません。


上記の就業規則規定例としてパターン1とパターン2を示しましたが、パターン1は、固定残業手当に含まれる時間外労働時間は各人別に異なるものとして、その時間については各人別に雇用契約書で明示するとした例です。

 

パターン2は、固定残業に含まれる時間を30時間などと事業所全体で一律に決める方法です。この場合においても雇用契約書において時間数を明示することを推奨します。就業規則に明示し、雇用契約書に明示しないことが直ちに固定残業制度を否定するものとはなりませんが、就業規則の周知性を問われた場合に、不利になる場合がありますので、雇用契約書に明示することを推奨します。


固定残業手当に含まれる時間は何時間まで許されるかということが疑問になります。争う余地がなく、もっとも推奨されるのは月間45時間以内です。弁護士が判例分析で指摘したとおり、労働基準法36条で規定する原則的な時間外労働の上限が月間45時間だからです。


会社の現状等に応じて、経験豊かな専門家と相談しながら固定残業手当に含まれる時間を設定することが肝要です。

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