長時間労働・パワハラがM&Aの障害になることも
決算書類などには問題がなく、むしろ財務的には健全と思えるような会社でも、デューデリジェンスで意外な展開を見せることがあるのが、労務関連の問題です。長時間労働や休みが取れないなどの問題が、訴訟トラブルに発展するケースは意外に多く存在します。
そのため労務関連の問題は、企業の譲渡金額に影響を及ぼし、ひいてはM&Aそのものの成否を決めることもある重要な要素となっています。
企業というのはヒトが動かすものなので、どうしてもトラブルは付いて回ります。全産業で見ても7割近い割合で労働関連法規違反が起こっています。労務の違反で多いのは、次のような点です。
●金銭債務的なもの(未払い残業代、未払い社会保険料など)
●法令違反的なもの(長時間労働、突然の解雇、有給休暇の拒否など)
●トラブル的なもの(パワハラ、セクハラ、いじめなど)
企業でこうした法規違反が常態化している背景には、社長の認識の甘さがあるといわれています。とりわけワンマン経営の会社で、認識の甘さがうかがえるケースが多く見られます。
たとえば、従業員は就業時間を超えて残業している意識があるのですが、社長は認識しておらず、サービス残業が常態化しており、未払いの残業代がある、社長とそりが合わず、解雇をいい渡した従業員が不当解雇の訴えを起こしているなどがよくありがちな例です。
泣き寝入りしない労働者も増えてきているだけに・・・
こうした労務トラブルは、M&Aでは嫌われるもののひとつです。特に、負の資産も引き継ぐことになる株式譲渡では嫌われます。前社長が起こした労務トラブルの火種が承継後に表面化した場合、その対応は新社長に降りかかってくるからです。金銭的な賠償や補塡も、新社長の義務です。
たとえば、賃金の未払いの事実が認められると、最大過去2年間の支払い義務が生じます。また、不当解雇の事実があれば、解雇予告手当に加えて解決金などの支払い義務が生じます。ハラスメントの損害賠償額も、訴訟件数が増えるのに伴って高くなってきています。近頃はブラック企業という言葉が広まり、人々の労働環境に対するチェック意識も高まりました。これは不当だと思ったときに、泣き寝入りしない労働者が増えてきたのです。
企業の労務トラブルは、しばしば風評被害となって世間に広がっていきます。一時的でもあそこの会社はブラックらしいと噂が立つと、従業員の募集をかけても応募が集まりにくくなります。従業員とトラブルを抱えているような会社は取引先としても敬遠したくなるため、取引に消極的になる相手も出てくるでしょう。
労務リスクを放置したままの会社も世間にはたくさんありますが、何とかなると高をくくっていると、M&Aではしばしば足元をすくわれます。自分で自分の企業価値を貶おとしめ、M&Aをご破算にされたりするのを安穏と待っているのと同じようなものです。
自分の会社は大丈夫だろうか、自分の労務管理に自信が持てないという社長の方は、社会保険労務士など専門家に相談して適切なサポートを受けると安心です。