経営管理資料の整備も「魅力アップ」の大事な要素
財務諸表には反映されないものの、買い手に安心感を与える要素として、マネジメント能力の高さがあります。マネジメントレベルの高さを証明する手段のひとつとして挙げられるのが、社内マニュアルや規程類の整備です。M&Aでは、次のような経営管理資料が重要視されます。
①株主名簿
②株主総会議事録
③取締役会議事録
④定款
⑤就業規則
⑥従業員退職金規程
⑦役員退職金規程
⑧税務申告書
⑨決算報告書
など
これらをきちんと提示したからといって、それが売却価格を引き上げることにはなりませんが、買い手に自社が社会的信用を得るに値する企業だという好印象を与える武器にはなります。周辺や細かい部分にも気を配れるということは、それだけ管理がいき届いているということであり、引いてはリスク要因が少ない会社であるという判断につながります。そうすれば、企業価値を無駄に引き下げることを防止できます。
財務諸表など目立つ部分を見栄えよく整えることは大事ですが、それは誰もがやって当たり前のことです。他の人がやらないことをあえてやってこそ、他に先んずることができるのです。
株式分散=経営権の分散で、魅力が大きく下がる
業績も良く、筋肉質の財務体質をもつ会社でも、買いにくい会社があります。それは、株式が分散している会社です。会社における株式とは経営の実権そのものです。つまり、株式が分散しているということは、経営権が分散していることと同義です。社長の意志や方針が通らない(とおりにくい)会社はコントロールがしにくいため、買い手にとっては魅力が半減します。
M&Aの際には、社長が100%の株式を持っていることがベストです。もし複数の株主に散らばっている場合は、事前に社長が買い取って集めます。さらにいうと、財務状況がよくても買いにくい会社には、大手企業1社への依存度が高い会社やワンマン経営の会社なども含まれます。
中小企業には大手企業1社の下請け比率が90%を超えているような会社があります。もしその大企業の業績が悪化したら、一挙に共倒れです。こういう会社は、今は業績がよくても将来どうなるか分からないので、買い手は二の足を踏みがちです。
現社長がワンマン経営で、従業員たちがそれに依存している会社も買い手にとっては魅力の薄い会社だといえます。強いリーダーシップをもつ現社長が退任したあとで、残された従業員たちが付いてきてくれるかどうか不安が残るからです。
現社長がカリスマ性のある人物の場合は、特にその傾向が強くなります。従業員はこの社長のために仕事に尽力し、少々の不満があっても我慢するものです。それと同じ対応を、次期社長にもしてくれるとは限りません。社長が代わった途端に、潜在的な不満が噴出して、トラブルに発展したケースも過去には幾つもあります。
取引先や顧客も同じです。社長の人柄で取引を続けていたり、商品を買ってくれたりする例が中小企業では多いので、社長が代わったと同時に取引がなくなることも考えられます。大手企業のようにビジネスライクにはつながっていないからです。
M&Aでは、こうした決算書の数字には表れない部分での会社の個性にも気を配る必要があるでしょう。
[図表]企業磨きのためのチェック項目