代償分割のために自宅を担保に入れたのが失敗の始まり
前回の例とは対照的に、代償分割がうまくいかずに破産してしまったケースもあります。
父はすでに他界しており、母と子4人の家族で母が亡くなりました。この母は大変な資産家で、自宅と不動産など総額で30億円もの財産を残していました。しかし、銀行からの借入金もまだ10億円残っていました。その財産をすべて相続したのは長男です。田舎で古い家督制度が残っていたこともあり、長兄相続は自然な流れだったようです。
その代わり、長男は代償分割をするつもりでした。しかし手持ちの現預金はないので、自宅や不動産を担保に入れて銀行から9億円を借り入れ、3人の弟に3億円ずつ渡したということです。3人はそこから各人1億2180万円の納税をしました。
問題はこの後、起こりました。長男はいざとなったら土地を売却して返済すればいいと考えていたのが甘かったのです。折からの不況で土地が値下がりし、思うように返済ができませんでした。結局、自宅も不動産も抵当に入り、しばらくして長男は破産を余儀なくされたのです。
いったん相続人全員で財産を相続していれば・・・
このケースでの一番大きな失敗の原因は、長男が1人で財産を相続してしまったことです。30億円の財産と10億円の借金を相続した長男には、この時点で納税に危険信号がともっていました。そのうえ、弟3人の納税資金9億円まで長男が借金してしまったことで決定的に自滅の道を突き進んでしまうことになったのです。
家督を大事にするがあまり、破産してしまったのでは元も子もありません。この場合は、いったん相続人全員が共有で相続し、不動産を処分すべきだったと思います。そうすれば、保有していてもメリットの少ない不良財産を処分して、財産を生む優良不動産だけを残すことができ、同時に納税資金も用意できたはずです。そうしてから、ゆっくりと全員が納得する分割を考えればよかったのです。
これだけの資産家ですから当然、なじみの顧問税理士はいたはずです。それにもかかわらず、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。顧問税理士が適切なアドバイスをできなかったからか、あるいは、この家族が自分たちの考えだけで暴走してしまったのか。いずれにしても、相続に詳しい専門家に意見を求めるという視点がなかったのが残念です。