「帳簿価格」にすることで譲渡所得税をゼロに!?
前回の続きです。法人化のメリットについて、下記の7つを挙げました。
①個人の税金より法人にかかる税金のほうが税率は低い
②個人より法人のほうが経費として計上できるものの幅が広い
③法人から支払う報酬によって、後継者に資産を分散できる
④資産を株式に替えて後継者に移転できる
⑤個人に譲渡益が出ないように法人に不動産(建物)を売却できる
⑥個人から土地を格安で借りられる
⑦相続後、3年以内の土地売却で相続税の納税資金が確保できる
今回は、⑤〜⑦番目について見ていきましょう。まずは⑤の「個人に譲渡益が出ないように法人に不動産(建物)を売却できる」について説明します。
個人所有の不動産を法人に売却する際に、個人に譲渡益が出ると譲渡所得税がかかってしまいます。しかし、この問題も簡単にクリアできます。建物を法人に売る時の金額を「帳簿価格」にするのです。帳簿価格というのは、建物を買った時の価格から減価償却していき、その残った部分(未償却部分)の価格をいいます。
たとえば、パソコンは耐用年数が4年です。定額法でいうと20万円で買ったパソコンなら毎年5万円ずつ償却されていくので、買った翌年は帳簿価格が15万円、その翌年は10万円・・・となり、4年後にはゼロになります。
建物の耐用年数は木造か鉄筋かなどの条件でも変わってきますが、20〜47年です。いずれにしても毎年確実にその価値は下がっていきます。売買における価額として原則は時価となっていますが、建物は購入時の価額より確実に低くなるのですから、時価が上がるような建物はほとんどありません。よって譲渡所得税を支払う必要がないのです。
「土地の無償返還に関する届出書」を提出する理由
では、⑥「個人から土地を格安で借りられる」に進みます。
⑤の方法で建物を法人に売却すると、土地は個人、建物は法人というように所有者が異なってしまいます。すると、その土地は貸地となり、底地権と借地権が発生します。地主である個人が持っているのが底地権、借地人である法人が持っているのが借地権です。借地人である法人は地主である個人に権利金を支払わなくてはいけません。すると、その分だけ個人の財産が増えてしまうので困ります。
権利金は借地権割合で決まります。借地権割合は高いところでは8割もありますが、低ければ3割というところもあります。住宅地では6割とか7割のところが多いようです。仮に1億円の土地で借地権割合を6割とすると、借地権は6000万円。通常、それくらいの額を借地人は地主に払わなくてはなりません。
しかし、この法人は赤の他人ではなく身内の会社ですので支払いたくないのは人情です。だからといって、無償で譲り受けたことになると、その金額が受贈益と見なされ法人税がかかってしまいます。それも嬉しくありません。そこで、「土地の無償返還に関する届出書」というのを税務署に提出します。
これは「いつか立ち退く時には借地権を無償で地主に返します=立ち退き料は要りません」という約束の書類です。これを提出しておくと、一律20%の借地権として処理されます。地主が土地の80%の権利を所有し、法人が20%の権利を所有するということです。その後、おおよそ一般的と考えられる額の地代さえ個人に支払えば、権利金を支払う必要はありません。
「相続税額の取得費加算」でさらなる節税効果を得る
最後に⑦「相続後、3年以内の土地売却で相続税の納税資金が確保できる」についてです。
いざ相続が発生して相続税の納税資金に困った時に、相続人が土地を法人に売却することで納税資金が調達できます。ただし、それは相続税の申告書の提出期限後3年以内の売却でないと、うまみが半減してしまいます。なぜかというと、3年以内であれば「相続税額の取得費加算」という特例が使えるためです。
相続税額の取得費加算という特例は、相続人が土地を売却して得た譲渡益にかかる譲渡所得税を軽減する効果があります。この特例を上手に使えば譲渡所得税をゼロにすることも可能なのです。
法人側に土地を買い取るだけの資金がなければ、銀行から借り入れをすることになりますが、この利息はすべて経費にできます。
もし法人化しておらず相続税の納税に困ったら、相続税を分割で払う「延納」しかありません。延納には利子税がかかります。税率は2〜4%くらいになります。相続税額だけ銀行から借金しても金利が2〜3%ですから、どっちもどっちといったところです。しかも、その利子税は何の経費にもならないのです。
そうやって考えると、法人に借り入れをさせてでも買い取らせるほうが、ずっとお得であることが納得してもらえるでしょう。
さて、ここまでを読んで法人を設立するメリットの大きさがおわかりいただけたでしょうか。実は、法人化のメリットは他にもまだまだたくさんあるのです。
その一方で、デメリットというのはほとんどありません。もちろん素人が下手なやり方をすると痛い目を見ますが、きちんと手順を踏み、タイミングを計って行えば、ローリスク・ハイリターンの対策になることは間違いありません。興味のある方は、不動産の法人化についてさらなる情報収集をしてみてください。