推定被相続人の財産を合法的かつスムーズに減らせる
今回は、これから法人を始めようと思っている人向けのお話です。不動産を複数持っている人は、個人でそれらを保有し続けるより法人を設立して譲渡したほうが何かと有利です。なぜなら、法人には数々の税のメリットが用意されているからです。
法人化することによって期待できるメリットには、主に次のようなものがあります。
①個人の税金より法人にかかる税金のほうが税率は低い
②個人より法人のほうが経費として計上できるものの幅が広い
③法人から支払う報酬によって、後継者に資産を分散できる
④資産を株式に替えて後継者に移転できる
⑤個人に譲渡益が出ないように法人に不動産(建物)を売却できる
⑥個人から土地を格安で借りられる
⑦相続後、3年以内の土地売却で相続税の納税資金が確保できる
これらによって、推定被相続人となる方の財産を合法的かつスムーズに減らし、相続人となる予定の家族に継承することができます。不動産の法人化による効果は、期間が長ければ長いほど大きくなります。
まず①の「個人の税金より法人にかかる税金のほうが税率は低い」ですが、個人にかかる税金には所得税と住民税があります。これらは所得が高くなればなるほど税率が高くなる仕組みになっています。所得が1800万円を超える人は最高税率の40%+住民税10%の合計50%が適用されます。
一方、法人の場合は法人税です。所得が800万円以下の部分については18%、800万円超の部分には30%の税率です。しかも、政府は今後、この法人税率を引き下げる方向性を打ち出しています。実際に何%まで下がるのか不透明な部分はあるにせよ、今より上がることはないでしょう。それだけでも、これからの法人化を後押ししてくれる安心材料といえます。
そこで、個人の所得がいくらなら法人化したほうがいいかの見極めですが、これは人によってさまざまです。ただ、おおむね年間の所得が2000万円を超える人は法人化したほうが税率の面で得をすると考えられます。
次に、②「個人より法人のほうが経費として計上できるものの幅が広い」という点についてです。経費は所得から差し引くことができるので、これが多ければ所得が減って税率が下がります。実は、個人では必要経費と認められないが、法人では認められるものがたくさんあります。
特に大きいのは、生命保険料を法人の経費にできることでしょう。保険料の額に制限はありません。身にあまるような過大な保険料はいけませんが、良識の範囲内であればいくらでもかまいません。
生命保険金は、先ほども述べたように退職金の原資として使えるだけでなく、死亡退職金として遺族が受け取ることもできます。生命保険金が法人に支払われると法人税がかかりますが、死亡退職金として遺族に渡してしまえば、それは経費ですから差し引きゼロとなって法人税はかかりません。
法人の所得は家族を役員にして報酬で分配
③「法人から支払う報酬によって、後継者に資産を分散できる」についてです。個人で不動産賃貸業をやっていると、その個人に丸ごと賃料が入ってきます。すると、先ほどもいったように所得税が高くなり、その一方で相続財産が増えていきます。利益が出ている賃貸物件であればあるほど、個人の相続財産は大きく膨らんでしまうでしょう。
一方、推定被相続人が持っている賃貸不動産を法人に譲渡すると、そこから上がってくる賃料収入は法人の所得になります。これを推定相続人である家族を役員として、その対価として報酬という形で分配するのです。
家族にはその分の所得税が課税されますが、家族が5人いれば5分の1の所得額になりますから、税率は低く済みます。しかも、推定被相続人が報酬をもらわなければ、相続財産が増えることもありません。贈与税を支払うことなく、配偶者や子、孫へ財産を移転できるのです。
ただし、お金をただ分散すればよいということではありません。役員となればきちんと相応の業務をする必要があります。そのためには家族には不動産賃貸業に精通してもらうことが必要です。
④「資産を株式に替えて後継者に移転できる」については、早い時期からコツコツと贈与していく方法もありますし、時間が限られている中での移転となれば、株価をコントロールしての贈与が可能です。株式にしておけば、さまざまな方法で株価を圧縮できたり、場合によっては納税猶予も使えたりするので有利です。
⑤以降のメリットの詳細は次回お伝えします。