今回は、銀行融資の「金利」を引き下げる具体的な交渉戦略を見ていきます。※本連載では、株式会社グラティチュード・トゥーユー 代表取締役で資金繰りコンサルタントの川北 英貴氏の著書『中小企業経営者のための 絶対にカネに困らない 資金調達 完全バイブル』(すばる舎リンケージ)から一部を抜粋し、金融機関の使い分けについて詳しく紹介します。

「1行取引」にこだわると、借入れ金利が高くなる!?

金利を下げるには、銀行間に競争させることが一番の方法です。あなたの会社が銀行から見て、融資をしたい企業であったとすれば、金利を下げるチャンスは多くあります。

 

企業の中には、メインバンクとの長年の関係を大切にしたいと、融資を受ける銀行は1行のみという「1行取引」にこだわっている企業もあることでしょう。しかしそういう企業は、借入れの金利は高くなる傾向にあります。

 

私は銀行員時代、自分の銀行からのみ融資を受けている1行取引の企業において、次のようにしていました。

 

ある会社が融資を申し込みました。私は稟議書を書き、金額3,000万円、返済期間3年、金利1.5%で、銀行内で審査が通りました。その後、私はその会社の社長に対し、融資審査が通ったことを伝えに行きますが、その社長に対し、次のように伝えました。

 

「社長、審査は通りましたよ。金額は希望通り3,000 万円、返済期間3年でOKです。なお金利は2.75%となります」

 

融資審査では金利は1.5%なのに、企業に伝える金利は2.75%なのです。稟議書では金利1.5%で審査が通っても、銀行としてはそれ以上の金利をいただけるに越したことはありません。稟議書で通った金利より高い金利で融資を受けてくれたら銀行はそれでよいのです。

 

この場合、[2.75% − 1.5%= 1.25%]が私の成果となりました。支店に帰って、私は上司や支店長に報告し、金利を高くできたことを誉めてもらえました。

 

このように1行取引の企業では、社長は他の銀行から融資を受けていないため金利の相場を知らず、高い金利をふっかけても銀行は社長から文句を言われることが少ないものです。一方で複数の銀行から融資を受けている企業であれば、他の銀行の金利を見ているため、この金利水準は高いか低いか、見ることができます。

 

この例を見ても、1行取引ではなく、複数の銀行から融資を受けるようにするべき、ということがわかります。

 

銀行員は自分の銀行から融資を受けてほしいのであれば、金利の低さで勝負することが多いです。

 

なお、融資の金利を低くするには、次の2つに分けて考えます。

 

ⅰ これから受ける融資の金利を低くする

ⅱ すでに受けている融資の金利を低くする

多くの銀行から融資の提案書をもらう理由

ⅰ これから受ける融資の金利を低くする

まず新たな融資の場合。できるだけ多くの銀行から融資の提案書をもらいます。ここでのポイントは、提案書として書面でもらうことです。そこには「金額3,000 万円、返済期間3年、金利1.5%で融資を提案します」ということが書いてあります。

 

提案書としてもらえるということは、すでにあなたの会社に対し、銀行内で事前に審査の協議(融資審査の正式な稟議の前の事前審査)を行っていると考えてよいです。銀行の担当者の一存で、具体的な融資の提案を行うことはできません。担当者の一存によって提案を行い、それが本審査で否決になって融資を断れば、融資は出るものと思っていた企業にとっては資金繰りの計画が狂い、大きな問題となります。そのため具体的な融資条件、つまり金額、返済期間、金利を書いた提案書を銀行員が出してくる時は、事前に銀行内で審査の協議を行っていることが普通です。

 

そして、複数の銀行から提案書をもらうと、A銀行では金利1.8%、B信用金庫では金利1.5%というように、金利が書いてあります。例えば3つの銀行から提案書をもらい、それぞれの金利は次の通りだったとします。

 

A銀行 1.8%

B信用金庫 1.5%

C銀行 1.3%

 

A銀行やB信用金庫に対し、C銀行の提案書を見せます。そうすると、どうしても自分の銀行から融資を受けてほしい銀行であれば、金利を下げた提案を再度、持ってきます。

 

例えば、A銀行が前回提案である1.8%から、1.2%にまで下げた提案書を持ってきます。そうしたら、そのA銀行の提案書をC銀行に見せて、C銀行でも金利の引き下げを促します。

 

このようにすることで、新たな融資で低い金利の融資を受けることができます。実際の実務ではメインバンクとの関係、今までの長年の銀行との関係、担保の状況など、必ずしも金利だけでどこの銀行で融資を受けるかを判断することはないでしょう。

 

しかし、このようなやり方で、低い金利で融資を受けやすくなるので覚えておいてください。

他の銀行へ借換えは、担当の銀行員にとって屈辱的

ⅱ すでに受けている融資の金利を低くする

すでに受けている融資の金利を引き下げたい場合。この場合、すでに受けている融資の金利引き下げなので、新たな融資の場合と異なり、より工夫した交渉術が必要となります。

 

例えば、あなたの会社がD銀行から2.5%の融資を受けていて、その融資残高が2,500 万円である場合。別の銀行から、その借換えの提案を受けてみます。あなたの会社に融資をしたいE銀行から、5,000万円、金利1.5%の提案書をもらったとします。そのE銀行の提案書を、D銀行に見せ、次のように言います。

 

「E銀行から、金利1.5%の提案書をもらっていますよ。5,000 万円の提案ですが、うちの会社はこんなにも資金がいらないから、5,000 万円で融資を受けD銀行さんの2,500 万円を返してしまおうと思っています。D銀行さんの金利は高いから」

 

他の銀行で自分の銀行の融資を借換えされてしまうことほど、銀行員にとって屈辱的なことはありません。

 

D銀行としては、どうやって他の銀行から借換えされるのを防衛するか。それは金利しかありません。そしてD銀行内で、金利の引き下げを協議します。

 

このようにして、既存の融資の金利2.5%を引き下げてくれることが期待できます。

 

この場合に気をつけなければならないことは、もしD銀行が金利を引き下げてくれなかった場合、本当にE銀行で借換えを行うと、D銀行を怒らせることになります。

 

そしてD銀行は二度とあなたの会社に融資を出してくれなくなる事態になることもあります。他の銀行に借換えされることほど銀行員にとって屈辱的なことはないですから。

 

あなたの会社が今後D銀行と付き合わなくてよいと思っているならまだしも、D銀行があなたの会社にとって今後も必要な銀行であったら、本当に借換えは行わないことです。

 

E銀行の提案通り融資を受けるにしても、その資金でD銀行の融資を返済してしまわないでください。

 

あくまでE銀行からの提案書は、D銀行の既存の融資の金利を引き下げるための道具としてのみ使ってください。

本連載は、2016年12月刊行の書籍『中小企業経営者のための 絶対にカネに困らない 資金調達 完全バイブル』から抜粋したものです。稀にその後の法律、税制改正等、最新の内容には一部対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

中小企業経営者のための 絶対にカネに困らない 資金調達 完全バイブル

中小企業経営者のための 絶対にカネに困らない 資金調達 完全バイブル

川北 英貴

すばる舎

元銀行員のカリスマコンサルタントが伝えたい! 銀行との融資交渉、決算書の見られ方、普段の取引…etc.「いつ不足するか?」 がひと目でわかる「資金繰り表」、絶対にソンをしない「資金調達」の方法、調達した後も苦しくな…

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