M&A(企業の合併・買収)の方法は6種類あり、自社を売却するときには一番適切なスキームを選ぶことが必要です。連載の第一回目は、それぞれのスキームの特徴を見ていきましょう。

会社の売り方によって異なるM&Aのスキーム

ひと口にM&Aといっても、いくつかの種類があります。まず、大きく「会社の全部を譲渡する方法」と「会社の一部だけを譲渡する方法」のふたつに分かれます。さらに、譲渡の仕方によって分かれます。

 

会社の全部を譲渡するスキームには「株式譲渡」「株式引渡」「合併」「株式交換・株式移転」があり、会社の一部を譲渡するスキームには「事業譲渡」「会社分割」があります。

 

それぞれの違いを概要で説明すると、以下のようになります。ここでは、ざっくりとしたイメージだけつかんでもらえれば大丈夫です。

「会社のすべてを譲渡する」パターン

【株式譲渡

株式の売買によって経営権を移転する方法。売り手の既存株主がその保有株式を買い手に譲渡し、買い手はその対価として現金を支払います。手続きが容易なことから中小企業のM&Aにおいて最も多く利用されます。

 

【株式引渡

売り手が新株を発行して(第三者割当増資)買い手に引き受けてもらう方法。第三者割当増資とは、会社の資金調達方法のひとつです。株主であるか否かを問わず、特定の第三者に新株を引き受ける権利を与えて行う増資のことをいいます。株式を引き受ける申し込みをした者に対しては、新株もしくは会社が処分する自己株式が割り当てられます。

【合併

複数の会社がひとつの会社に統合する際に用いられる方法。1社のみを存続させ、その他の会社は存続会社に吸収、消滅するのが「吸収合併」です。合併する企業をすべて消滅させ、新設した会社にすべての企業を統合させるのが「新設合併」です。

【株式交換・株式移転

「株式交換」は、ある会社を完全子会社にする際に、親会社となる会社が、対象会社の株主から対象会社の株式を引き取り、その対価として自社の株式を対象会社の株主へ交付する方法。「株式移転」は、新設する会社の株式を譲り受けることで、持株会社を創設し、経営統合をする方法。第三者と事業を統合したいが、いきなり合併すると組織の軋あつ轢れきが大きいといった場合などに、より緩やかに統合を行うことを目的として、これらの方法が選択されることが多いようです。

「会社の一部だけを譲渡する」パターン

【事業譲渡

会社の事業部門や会社資産の一部または全部を譲渡する方法。売り手が売却範囲を任意に選択できるため、経営戦略的な目的で選ばれることも多く、中小企業のM&Aでは株式譲渡に次いで多く利用されます。

【会社分割

分割する会社の営業を承継する会社が新しく設立される「新設分割」と、既存の会社が承継する「吸収分割」があります。この場合、営業を移転する会社を分割会社といい、営業を承継する会社を分割承継会社といいます。

M&Aではこれらのスキームのうち自社に最適なひとつを選んで実行することになりますが、中小企業のM&Aで売り手が選択するとしたら、9割以上が「株式譲渡」か「事業譲渡」のいずれかになるでしょう。

 

そこで、このふたつに焦点を絞り、具体的なやり方や実行する目的、それぞれのメリット・デメリットなどを見ていくことにします。

本連載は、2015年9月25日刊行の書籍『後継ぎがいない会社を圧倒的な高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

後継ぎがいない会社を 圧倒的な高値で売る方法

後継ぎがいない会社を 圧倒的な高値で売る方法

岡本 雄三

幻冬舎メディアコンサルティング

「後継者がいない」「後継者がいても継がせたくない」そう悩む中小企業経営者が増えています。しかし、廃業となると、経営者自身の連帯保証の問題や従業員の生活の保証、取引先への影響などもあるため、なかなか踏み切るのは難…

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