前回は、M&Aのスキームについて大まかに説明しましたが、その中でも特にポピュラーなものは「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つです。があることは、今回はその1つ目「株式譲渡」について見ていきます。

「株式譲渡」では企業価値が毀損されにくい!?

前回でも触れたとおり、中小企業のM&Aで売り手が選択するのは、9割以上が「株式譲渡」か「事業譲渡」のいずれかになるでしょう。本連載では、「株式譲渡」「事業譲渡」に焦点を絞り、具体的なやり方や実行する目的、それぞれのメリット・デメリットなどを見ていくことにします。まずは「株式譲渡」です。

 

スキーム① ・・・会社を丸ごと売る「株式譲渡」

株式譲渡は「承継する会社の株式を売買するだけ」というシンプルさから、中小企業のM&Aで最も選ばれるスキームです。会社を包括的に承継することで、企業価値が毀損されにくいという点も好まれる理由です。

 

ただし、会社を丸ごと承継するということは、債務や訴訟リスクなども一緒に承継されてしまうため、買い手にとってはデメリットになる可能性を含んでいます。株式譲渡でM&Aをしたいと考えるのであれば、事前に買い手側が敬遠しそうなマイナス要素を改善し、できるだけ取り除くように準備しておくべきでしょう。

 

一般的には経営者一族が所有する株式を売却しますので、売り手側に譲渡税が課税されます。

 

仮に資本金が1000万円だったものを3000万円で譲渡したとすると、差額の2000万円について譲渡税がかかります。譲渡税は金額の多寡にかかわらず一律20%なので、納税額は400万円です。

 

株式譲渡をすることのメリットとデメリットを、売り手側と買い手側でそれぞれまとめておきます。

やはり「売り手」のメリットが多い株式譲渡

【売り手】

★メリット

●消費税等の課税対象にならない

●個人として現金収入を得ることができる

●個人の場合、譲渡益に対する税率が低い(20%)

●株主が変わるだけで、原則として組織の体制や株式数、会社名や会社が持っている資産、債権債務、取引先との契約関係、許認可、従業員との雇用関係などに変化はなく、対外的な影響は少ない

●株式譲渡契約を締結して実行となるため、役所等への手続きも必要ない。

 

★デメリット

●経営理念、経営方針が承継されない場合がある

●簿外債務や保証債務などのオフバランス項目が精査で発見されると、不成立になりやすい

 

【買い手】

★メリット

●譲渡の際の手続きが簡便・新たな株主が発生しないので、利害関係が複雑化しない

 

★デメリット

●売り手のマイナス部分(簿外債務や訴訟トラブル、見えない労務リスクなど)も引き継ぐことになる

●他のスキームに比べ買収資金が多額になる場合が多い

●買収会社とは別会社として存続するため、スケールメリットが生かされない場合がある

●少数株主との買収交渉が必要となる場合がある

本連載は、2015年9月25日刊行の書籍『後継ぎがいない会社を圧倒的な高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

後継ぎがいない会社を 圧倒的な高値で売る方法

後継ぎがいない会社を 圧倒的な高値で売る方法

岡本 雄三

幻冬舎メディアコンサルティング

「後継者がいない」「後継者がいても継がせたくない」そう悩む中小企業経営者が増えています。しかし、廃業となると、経営者自身の連帯保証の問題や従業員の生活の保証、取引先への影響などもあるため、なかなか踏み切るのは難…

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