自社株の3分の2以上は経営者所有にするのが望ましい
会社を起業したとき、その会社の株式は大体、起業した社長が一人でもっています。しかし、その後会社に待ち受けている成長や試練にしたがって、株主が複数に分かれていくことがあります。
共同出資者と一緒に事業を進めることにして株式を持ち合うことにするケース、親が創業した会社を承継し、兄弟で株式を持ち合うケースなどがその典型例です。
そのほかにも、会社の成長を見込まれて大きな会社やベンチャー・キャピタル(VC)から資本を受け入れるケース、逆に会社が苦境に立ち、救済の手をさしのべてくれる会社から資本を入れてもらうというケースもあります。
株式会社にとって、一つの典型的な成功例は、株式を公開し上場することでしょう。この場合も、多くの一般株主や投資家が会社の株式をもつことになります。
会社を起業したとき、会社にはお金も、実績も、多くの顧客も、多くの社員もありませんから、社長は自社の株式の帰属について無頓着なことが多いのです。ところが、会社が成長すると、自分以外の株主からいろいろな要求を受け、はじめて株式の重要性に気付き、そして「気付いたときにはもう遅い」という事態に陥っています。
株主は、会社の所有者です。シンプルに言えば、株主が社長を選び、会社の重大な方向性を決める権利をもっているのです。
ですから、私は会社を経営する社長には、いつも次の3つのアドバイスを差し上げています。
①会社の株式の過半数をもっていなければ、会社を経営する意味がない
株式会社の取締役は、株主総会の決議によって選任されます。つまり、過半数を保有する株主は、その会社の取締役や社長を自由に選んだり、辞めさせたりすることができるのです。
ですから、極端に言えば、会社の株式の過半数をもたない社長は、どんなに一生懸命経営に取り組み、会社の業績を伸ばしたとしても、いつ会社をクビになるか分かりません。そして、会社と雇用関係にある社員は、労働基準法により正当な理由なく解雇されないという保障がありますが、会社と委任関係となる取締役にはそのような保障はなく、特別な理由のない解任も認められてしまいます。
ですから、最低でも過半数の株式をもった状態でこそ、安心して会社の経営に打ち込むことができるのです。
②会社の株式の3分の2以上をもたずに会社を経営するのは、危険がいっぱい
定款の変更や事業の譲渡、会社の合併や解散といった重要事項は、株主総会の特別決議といって3分の2以上の賛成多数によって決定されます。したがって、会社が成長し、いざ会社にとって重大な決断をしようとしたときに、3分の1以上の株式をもつ株主の反対にあうと、会社が立ち往生してしまいます。
これは昭和シェル石油との合併が暗礁に乗り上げている出光興産の例を思い浮かべていただくと分かりやすいでしょう。出光興産では創業家が株式の3分の1強を保有しているため、創業家が反対すると合併についての株主総会特別決議が否決されてしまうのです。
社長一人が株式の3分の2を保有していなくても、親や兄弟の株式を合わせれば3分の2を超えるという会社も少なくありませんが、決して安心することはできません。
親や兄弟であっても、お互いの利益が対立していがみ合うケースや、当人同士でなく株主の配偶者が口を出してきて方針が合わないことは、実際に大塚家具やロッテのお家騒動など、枚挙にいとまがありません。
売却・M&Aを視野に入れるなら、全株を社長の所有に
③できれば、会社の株式を全株もって経営を
私は、社長が安心して会社の経営に邁進するためには、できるだけ全株を社長が保有することをお勧めしています。
確かに、会社の全株を保有していなくても、4分の3以上の株式を保有していれば、法律上はその会社の実権をすべて握っていると評価できます。
しかし、たとえばあなたの会社に後継者がいないことから、会社を売却することになった場合や、さらなる成長をするために大企業とのM&Aに応じることになった場合、必ず相手は「全株式」の譲り受けを条件としてきます。
株式を少数しかもたない株主にも、株主総会の招集や議案の提案、帳簿の閲覧や役員解任の訴えなど、さまざまな権利が認められているため、どのような株主がいるのか分からない会社の一部の株式を買い取ることにはリスクがある、と評価されてしまうためです。
そして、このような事態になったときにも、会社の株式を「買い取らせてくれ」と要求する権利も、「買い取ってくれ」と要求する権利も法律上はありません。話し合いが成立しなければ、何も強制する手段がないのです。
ですから、このようなときに備えて、できるだけ会社の株式は分散させず、社長が全株を保有すべきなのです。