自社の株式を「他人がもつ」リスクを理解しておく
私は、会社の株式は全株、社長がもつべきだとお話ししました。
これに対して、ベンチャー・キャピタル(VC)から資本を受け入れたり、上場することで資金を調達したりする会社があります。このような場合には当然、出資者が株式をもつことになりますし、むしろ社長が株式の過半数をもつことのほうが少ないかもしれません。
もちろん、会社が成長するために、VCの力を借りたり、上場によって資金調達をすることが有用であることを否定しません。しかし、その決断は、自社の株式を他人がもつことの意味とリスクを十分に理解してからするようにしてください。
上場することで社内環境が改善した例も
私が親しくしているH社のT社長は、会社を成長させても上場はしないことを決めました。会社にとっては、社長が誰であるかが一番大切なことであり、それをコントロールする権利を失ってしまうと、社員を守ることができないと考えたからです。H社の社員たちは、自分たちの会社を誇りに思い、T社長を心から慕い、一丸となって会社の業績を伸ばしています。
一方のI社のB社長は、VCからの出資も受け入れ、上場に向けて最短距離で突っ走っています。I社の社員は上場という共通の目標に向かって一致団結し、高いハードルを次々にクリアしています。
そして、数年前に上場を果たしたM社のD社長は、上場後の思わぬ効用をこう話してくれました。
「上場は本来資金調達のためにするものと言われていますが、実際にはそれ以外の効用が大きかったです。上場によって会社の信用力が飛躍的に上がり、社員たちは住宅ローンの審査に通りやすくなったり、結婚を認めてもらえやすくなったみたいです。また、会社にとっては大卒の優秀な新人を採用できるようになったり、好条件のM&Aの案件が持ち込まれるようになりました。これは上場してみてはじめて分かったことです」
どちらが正解、どちらが間違いということはありません。ただし、株式の大切さだけは忘れないでください。