今回は、「何でも経費で落とす」会社の業績が伸びない理由を見ていきます。※本連載は、未来創造弁護士法人・代表弁護士、株式会社エイアンドティー・取締役で、税理士としても活躍する三谷淳氏の著書、『伸びてる会社の意外な共通点』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋し、伸びてる会社に共通する「経理」と「会計」の特徴について紹介します。

みんな口をそろえて「節税のため」と言うが・・・

伸びてる会社では、公私混同がありません。当たり前のことに思われるかもしれませんが、社長が自ら起業し、すべての株式を社長がもっているような同族会社では、厳密に公私の区別をつけている会社は意外と少ないものです。

 

たとえば、家族や友だちとの飲食費を「交際費」と称して、会社の経費で処理していたり、自動車を会社の資産として減価償却している会社があります。社長の住まいを「社宅」と称して、会社の経費で落としている会社も見たことがあります。このような経費処理は、公私混同の一種です。

 

では、なぜこのような公私混同がいけないのでしょうか。このような経費処理をしている会社の社長は、みんな口をそろえて「節税のためにやっている」と言います。

 

まず試しに、年間300万円の車両費を会社の経費とするか、社長の個人もちとするかで税務上どのような差があるのかを見てみましょう。

 

【車両費を会社の経費とする場合】

●会社の売上・・・3000万円

●会社の経費・・・2000万円(車両費300万円を含む・社長の給料を除く)

●社長の給料・・・800万円

 

この場合、会社の利益は200万円となります。会社は利益200万円に対して法人税を払い、社長は給料800万円に対して所得税や住民税を払います。

 

【車両費を社長の個人負担とする場合】

●会社の売上・・・3000万円

●会社の経費・・・1700万円(車両費を会社の経費にしない・社長の給料を除く)

●社長の給料・・・1100万円(車両費300万円は社長の個人負担)

 

この場合、会社の利益は同じく200万円となります。会社は利益200万円に対して法人税を払い、社長は給料1100万円に対して所得税や住民税を払います。

 

このように比較してみると、会社にとっては自動車分の300万円を車両費として経費扱いとしても、社長の給料として支払っても利益額(200万円)が変わらず、したがって法人税の支払額も変わりません。

 

しかし、社長の給料額(所得)が変わるため、社長個人の所得税や住民税の負担は後者のほうが重くなります。会社と社長の税負担をトータルで考えた場合、前者のほうが手元に残るキャッシュが多く、後者のほうが税負担は大きくなることが分かります。

 

それにもかかわらず、なぜ公私の別を厳格にすることを勧めるかというと、公私混同をしない会社の社員は総じてモチベーションが高く、熱意にあふれているからです。

 

社長が高級車に乗って、これを会社の経費で落としたりしていると、その会社で働いている社員は「自分たちは、社長が高級車に乗るために働かされているみたいだ」と一生懸命働くのがバカバカしく感じてしまうのです。

 

一方、公私の別を厳しくつけている会社では、頑張って努力した分だけ会社の利益が増えていくことを社員全員が実感できますから、社員のモチベーションは高く、会社の売り上げや利益がどんどん伸びていきます。その結果、社員だけでなく社長の給料も上げることができます。

 

「節税をしよう」などというセコいことを考えて、社員のやる気を削いでしまうより、節税など考えずに会社の経営を伸ばすことが、結果的に社長の取り分も増やすことにつながるのです。

 

 

経費の使い方について、社内の統一ルールをつくる

では、会社の経費で落とすものと、社長や社員が個人で負担すべきものの区別はどのようにつけるべきでしょうか。

 

じつはこの区別の判断はとても簡単で、「社長が使っても、社員が使っても等しく会社の経費とすべきもの」だけを会社の経費とすればいいのです。

 

どんな場合にタクシーを使っていいのか、お客様との会食はどんな店を使えばいいのか、出張の際の宿泊ホテルはどのグレードにすべきかなど、社内共通の統一ルールをつくってしまえば、社員間の公平感も増しますし、社長も堂々と経費を使えるようになります。

 

伸びてる会社の意外な共通点

伸びてる会社の意外な共通点

三谷 淳

合同フォレスト

数多くのクライアントの経営改善に成功してきた著者・三谷淳氏が発見した「伸びてる会社の共通点」はこんなにも意外なものだった! 当たり前だけど忘れがちなことを、コツコツ続けた先に成功がある。半信半疑からでもいい、今…

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