前回は、ウォルマートの事例から、企業の立地戦略について取り上げました。今回は、ブランド戦略の立案に欠かせない「立地・商圏」との関係性を見ていきます。

「Kマート」はなぜウォルマートになれなかったのか?

前回の続きです。

 

ウォルマートとは対照的に店舗網拡大に失敗したのが、2002年に倒産したKマートである。同社のディスカウント業態がオープンしたのは1962年で、ウォルマート、ターゲットと同じ時期だ。1977年当時の売り上げはウォルマートの20倍近くあり、主として郊外から都市部の人口密度の高い地域に出店していた。

 

Kマートはウォルマートより規模の拡大は早かったが、しかし収益性は低かった。そこで、Kマートは90年代に多角化を目指しドラッグストア、書店チェーン、スポーツ用品専門店チェーンを買収したが失敗した。そこで、再びディスカウント業態へと原点回帰するが、時すでに遅く、かつてKマートの得意市場であった郊外エリアはウォルマートに侵食されていた。

 

全米で最大の店舗網を持つウォルマートだが地域によって顧客率は異なる。シェアの高い、つまり顧客ロイヤリティーの高い地域はミドルクラスからワーキングクラスの価格に敏感なファミリー層が多い地区となる。

 

具体的には南部から中西部にかけて農業が盛んな穀倉地帯である。反対にインテリと富裕層の多いワシントンDC、ニュージャージー州、フロリダのマイアミ周辺、シリコンバレー、サンディエゴ、ニューヨーク州ではシェアが極端に低い。圧倒的なシェアを誇る小売り業態でも地域によって顧客のロイヤリティーは異なる(M・J・ワイス『世界クラスター全書』(The Clustered World; Michael J.Weiss 2000 Little、Brown and Company))。

 

米国の作家M・J・ワイスは、全米の居住者タイプを地区ごとに分類したデータをもとにそれぞれの地域の居住者像を緻密な取材で描いた『アメリカライフスタイル全集─40クラスターに見る素顔の社会』(監訳者岡田芳郎 日本経済新聞社)の著者として知られるマーケティング・コンサルタントだ。

 

彼の使用した居住者区分データは米国クラリタス社のもので、米国の郵便番号エリアを1980年の国勢調査に基づいて40のクラスターに分類したものを基に取材し80年代のアメリカのライフスタイルを描いている。

ブランドと立地・商圏は相互に影響しあい、成長する

英国の居住者区分データMosaic(モザイク)の開発者の一人でもあるリチャード・ウェバー博士によれば「家を購入するというのは建物を手に入れるだけでなく、その人となりを語る近隣のコミュニティーをも購入することでもある。これは世界共通にみられる」とパーソナリティーと居住地域の密接な関係を指摘している。

 

立地がブランドを決める。ブランドは立地・商圏によって育てられる。その逆もまた真で立地・商圏はブランドを選ぶ。ブランドと立地・商圏は相互に影響しあいながら成長していく。小売立地と居住者の関係を統計的な手法を使って明らかにしたのは19世紀末の英国であった。

ジオマーケティング戦略 ポスト「マス」時代の消費者分析

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酒井 嘉昭

幻冬舎メディアコンサルティング

「ところ変われば、(売れる)品も変わる」──。現代において「流行」とは、企業がつくり出すものではない。様々な情報へ日常的に触れる消費者に「選ばれて」初めて、流行の商品・サービスとして流通する。ビッグデータ全盛の…

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