前回は、立地・商圏ポテンシャルの「可視化」を目指した、小田急電鉄の事例を紹介しました。今回は、商圏分析の観測ポイントについて解説します。

「商圏調査」は店舗開発の単なる通過儀礼ではない

これまで、商圏調査といえば店舗開発のための通過儀礼であった。まだ市場に空きスペースがあり出店余力があった時代、空きスペースを見つける、つまり競合他社がまだ開発していない立地を発見することが商圏調査の主要な役割であった。現在では商圏調査は一過性の儀式ではなく地域市場をモニタリングし、顧客を発見・育成・開発し、その関係を維持発展させてゆくための継続的なプロセスとなっている。

 

観測手段と情報の限られていた20世紀型商圏分析ではとにかく精緻な商圏の形状の追及、統計データを細部まで分割して精度を上げようとする傾向があった。精緻な商圏の形状が再現できれば商圏人口と売り上げには、はっきりとした相関ができるはずだと素朴に信じられていたが、いまや人口だけで売り上げを予測することはできない。

 

多様な消費形態、ライフスタイル、一人十色の消費者から選ばれるような店づくりをするには精緻な商圏形状を論じたり予測したりするよりも、直接顧客データを収集しその分布や居住環境を観察し、買い物行動を分析した結果に基づいて立地の選定、マーチャンダイジング、販売促進を計画・実行するほうがより効果的である。

 

顧客を理解し競争力のある商業施設をデザインするという目的が明確であれば、商圏分析における観測ポイントも「居住者の質と量」「近接性」「集積の質と量」の三つの視点からビジネスに直結した分析が実現できる。

店舗開発、運営、販売促進と商圏の関係とは?

20世紀型発想では店舗開発は営業部門の一形態で販売拡大の拠点作りという位置づけだった。店舗を作ったあとは運営部や商品部に店舗施設は引き渡される。予定した売上額に達しない場合は運営部や商品部がお叱りを受ける。そして売れないのは販促が足りないからということで盛んに販促を行うことになる。

 

店舗開発部が土地・物件を見つけてきて、商品部が商品をならべて、運営部が接客・販促などのオペレーションをする。それぞれのフェーズで使われているマーケティング指標、羅針盤はバラバラだ。店舗開発が開発根拠にするのは商圏人口と競合で、小型店舗であれば前面交通量と周辺相場情報となる。周辺相場情報は自社のビジネスと同じようなビジネスを展開している業種の月当たりの坪売り上げ情報を参考にする。

 

開発後は商品部がマーチャンダイジングを実施する。その場合は既存店舗の中でも似た規模の店のレイアウトやその時々で流行の品ぞろえを取り入れていくケースが多い。テナント構成にしてもリーシング部門が別途プランニングをするというのもよく見られる。ここで使用される情報は既存店からの経験、業界で共有されている常識、商品部門のメンバーやリーダーが保有する暗黙知などが利用される。そして、運営部門の接客・販促については地元の広告代理店や販促支援企業が様々なアイデアを提供している。

 

顧客接点を店舗というハードでデザインする部門と、商品やマーチャンダイジングというソフトをデザインする部門、接客・販促といった顧客と最も接触の高い部門がそれぞれ異なった尺度でPDCAサイクルを回している。

 

一部の企業を除いてこれらの開発、商品・リーシング、運営部門が横断的に顧客理解のためのデータ活用を実施しているのはまれだ。特に大型商業施設の開発、リーシング、運営部門においてはポイントカードデータなど顧客を理解するための豊富なデータがあるにも関わらず活用が遅々として進まない。

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