今回は、配偶者への生前贈与における「控除」の適用要件と留意点について見ていきます。※本連載では、税理士法人チェスター監修、株式会社エッサム編集協力、円満相続を応援する税理士の会著、『相続税の疑問がすっきり! わかる本』(あさ出版)から一部を抜粋し、不動産オーナーのための「相続税の節税」に関する基礎知識を解説します。

基礎控除との併用が可能な「おしどり贈与」

相続税では、配偶者は法定相続分または1億6000万円のどちらか大きい方の金額まで非課税となる「配偶者控除」があります。同様に贈与税にも、配偶者に対する贈与は最高2000万円まで控除が認められる優遇制度があります。

 

これを「おしどり贈与」と呼びます。

 

おしどり贈与は基礎控除(年間110万円)との併用が可能です。つまりその年に他の贈与がなければ、2110万円まで贈与税がかからなくなります。

 

<配偶者控除の適用要件>

1 婚姻期間が20年を過ぎた夫婦間の贈与であること。

2 自分が住むための居住用不動産の贈与、または居住用不動産を取得するための金銭の贈与であること。

3 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与によって取得した国内の居住用不動産、または贈与を受けた金額で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた人が実際に住んでおり、かつ引き続き居住する見込みがあること。

4 土地または借地権のみの贈与の場合、家屋の所有者が配偶者または同居している親族であること。

5 無税でも贈与税の申告を行うこと。

6 同一の配偶者から一生に一度のみ受けること。

 

1の「婚姻期間」は、正式な婚姻届を出してからの期間です。同棲期間や婚約期間は含まれません。内縁関係の夫婦は適用外です。

 

2については、金銭よりも不動産の贈与をお薦めします。

 

土地や建物の贈与税の評価は、土地が時価の80%、建物が60%程度になり、通常よりも低めに評価されるためです。

 

5は、2110万円以下の贈与であっても、確定申告の期間内に税務署に贈与税の申告書を提出しなければならないことを示しています。必要な添付書類は、次の4つです。

 

「贈与日から10日を経過した日以降に作成された戸籍謄本または抄本」

「贈与日から10日を経過した日以降に作成された戸籍の附票の写し」

「居住用不動産の登記事項証明書」

「居住用とした日以降に作成された住民票の写し」

 

6は、1500万円の家を贈与されたときは1500万円が控除されますが、残りの500万円を翌年に繰り越したり、不動産以外の贈与に利用したりすることはできない、ということを示しています。

自宅を夫婦の「共有名義」にするのも重要な節税策

贈与税が控除されたとしても、不動産の登録免許税と取得税は課税されます。

 

登録免許税は、相続の場合は固定資産税評価額の0・4%ですが、贈与の場合はその5倍もの2%かかります。また不動産取得税は、相続の場合は非課税ですが、贈与の場合は固定資産税評価額に対して土地3%、建物3%が課税されます。

 

さらに不動産登記で司法書士への報酬も必要です。

 

相続開始前3年以内の生前贈与は相続財産に加算されますが、配偶者控除を利用した贈与は加算対象から外れます。たとえ贈与を受けたその年に配偶者が亡くなっても、加算されることはありません。

 

なお居住用の土地と家屋が夫のみの名義であった場合、この贈与を使って夫婦の共有財産にしておくことも、重要な節税策の1つです。たとえば介護が必要な状態になって自宅での生活が難しくなり、夫婦で有料老人ホームに入所することを決めたとします。入所の資金を作るために住んでいた自宅を売却するとき、夫のみの名義であれば「居住用財産の譲渡所得の3000万円の特別控除」は1人分しか使えません。

 

しかし共有名義にすることで、夫婦2人分の適用が可能です。合計6000万円まで譲渡所得に対する税金が非課税になるのです。

本連載は、2015年9月16日刊行の書籍『相続税の疑問がすっきり! わかる本』から抜粋したものです。その後の法律、税制改正等、最新の内容には対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税の疑問がすっきり! わかる本

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