年間110万円以内の贈与は課税されない
相続税同様、贈与税にも基礎控除があります。
年間110万円以内の贈与は、課税されません。
このため「相続税を減らすために、基礎控除の枠内で計画的に贈与を行っている」という人がたくさんいます。
たとえば、60歳から80歳までの20年間、毎年子どもに110万円ずつコツコツと贈与を続けると、どうなるでしょう。
110万円×20年=2200万円
これだけの金額を、子どもに無税で渡しながら、相続財産を減らすことができるのです。
さらに、この基礎控除はあくまで「1人に対する年間の贈与額」であるため、子どもや孫の数だけ増やすことが可能です。
●子ども2人に贈与:110万円×2人×20年=4400万円
●子ども1人と孫2人に贈与:110万円×3人×20年=6600万円
●子ども2人と孫4人に贈与:110万円×6人×20年=1億3200万円
このように毎年贈与を行うことを「暦年贈与」といいます。
一度に多くの財産を減らすことはできないものの、複雑な手続きなどは一切必要ありません。基礎控除額以内であれば、好きな金額を好きなときに渡すことができるため、最も取り組みやすい生前対策といえるでしょう。
「贈与が成立していない」という事態を避けるには?
ただし、暦年贈与を行うには、いくつか注意しなければならないことがあります。
実はこの暦年贈与は、相続税の税務調査でよく問題になっているのです。そもそも贈与とは「渡す人」と「もらう人」の合意によって成立します。さらには「もらう人」がその財産を自由に使える状態でなければなりません。
つまり、
「贈与されていることを知らなかった」
「毎年贈与されているのは知っていたけれど、通帳や印鑑は親が管理していた」
このような状況では「贈与は成立していない」とみなされます。
贈与が成立していなければ、その財産は相続財産として丸ごと残ってしまいます。20年かけてコツコツと贈与してきた苦労が、すべてムダになってしまうのです。80歳になってからでは天寿を全うするまでの時間は少なく、贈与できる金額も減ってしまいます。
このような悲しい結果にならないよう、次の3点を徹底しましょう。
1 贈与を受けた人が、通帳や印鑑を保管・活用する
贈与する人は、絶対に相手の通帳と印鑑を持っていてはいけません。
2 贈与契約書を作成する
預金間で振込を行って通帳に記載することはもちろん、贈与した事実をより確かな証拠として残すためにも、贈与のたびに契約書を作成しましょう。
3 贈与は毎年同じ金額、同じ日にしない
契約書を作成するときに「毎年100万円ずつ、20年に渡って贈与する」という契約内容にしてしまうと、暦年贈与ではなく連年贈与と見なされてしまいます。つまり「最初から2000万円を贈与する予定だった」ということになり、多額の贈与税を課税されてしまう恐れがあるのです。
これを防ぐためにも、毎年「贈与金額を変える」「贈与する日を変える」ようにしましょう。
申告書の提出で贈与の発生を公的に認めてもらう手も
後々の税務調査でトラブルにならないために、贈与税の申告書を提出するのも1つの方法です。つまり111万円の贈与を行い、基礎控除額を超えた1万円分だけの贈与税(1000円)を支払うことで、贈与があったことを公的に認めてもらうのです。
ただしその場合も、受け取った人物が通帳や印鑑を保管・活用していること、贈与契約書が作成されていること、毎年異なる金額、日付で贈与が行われていることは、必須です。贈与の「実態」がなければ、いくら「証拠」を提出しても認められません。
相続税の生前対策は「長期間」で「確実に」行うことが基本です。
相続開始日から3年以内の贈与は相続税の課税対象となってしまうため、親や自分の死期が見え始めてから慌てて取り組んでも、大きな効果を得ることはできません。また、どれだけ時間をかけて計画を進めても、その方法が間違っていた場合は、すべて水泡に帰してしまいます。
相続税の節税策は、
●早めにスタートすること
●専門家に相談や確認をとる
この2つが、とても重要なのです。