6割の患者が「待ち時間」に不満をもっている
新しく開業するクリニックは、既存のクリニックに比べて、地域における知名度、それまでの実績、リピーターの存在などにおいて劣っています。地域診療で愛されるおじいちゃん先生がいる診療所からは、なかなか患者をひっぱることはできません。しかし、逆に新しいクリニックでなければできない魅力もあるはずです。
たとえば、清潔感のある外観や内装、最新の設備、医師の若々しさとやる気は、新規開業したクリニックの優位性になるでしょう。また、旧来のクリニックに対して患者が抱いている不満をすくい取って、解消してあげることができれば、それも新しいクリニックの差別化要因になります。
では、いったい患者は何に不満を抱いているのか。株式会社メディネットの「病院満足度調査」(13病院・4681人)によれば、「診察待ち時間」に対する不満が22.2%と最も多く、次いで「駐車場」、「会計の待ち時間」と、「待ち時間」に対する不満が圧倒的に高くなっています。このような待ち時間に対する不満は、最新のITを使うことでかなり減らすことができます。というのも、クリニックの「待ち時間」に対する不満は、診療時間の予約ができないことが大きな原因になっているからです。
[図表]病院の外来患者の不満トップ10
症状が異なるため、診療時間の固定は難しい
なぜ、今までのクリニックでは診療時間の予約ができなかったのか。その理由は、それぞれの患者で症状が異なるために、診療時間を固定することができないからです。予約制にして診療時間に制限を設けてしまうと、丁寧に診察ができないのではないかと、医師が怖がっている面もあるでしょう。あるいは、医師の都合ばかりを優先して、患者の利便性を高めるという発想があまりなかっただけかもしれません。一般に、予約受付が可能な業態というのは、一人ひとりにかかる時間があらかじめ固定されているか、あるいは個人差が少ないものです。
たとえば、マッサージやカウンセリングは、30分や1時間などと時間が決められているので、完全に時間予約制にすることができます。居酒屋の食べ放題、飲み放題も時間制ですし、人の食事の時間はそれほど個人差が大きくないので、たいていのレストランでは時間を指定して予約が取れます。美容院や整体なども同様です。
クリニックでも、歯科や産婦人科など専門性が高く、診療内容がほぼ似たようなものになる場合は、時間予約制を導入しているところがあります。しかし、内科や小児科のように、患者がどんな症状で来院するかが読めない診療科だと、時間予約を取るのは難しいのです。
また、時間予約の場合、予約した人を待たせないように長めに診察時間を取るようになっていますが、そうなると早く診察が終わった場合に空き時間ができてしまいます。無駄な空き時間を作りたくない医師が、予約制を採用したくないと考えるのも理解できます。
もちろん、時間予約制を取っているクリニックでも、予約なしの患者が来院しますから、空き時間にはそのような人の診察を入れることで無駄をなくしています。しかし、そうなると今度は「予約した時間になっても診察してもらえない」という事態が起きてしまいます。実際、時間予約制のクリニックで、そのような不満を抱いている患者は少なくないでしょう。そもそも完全予約制で空き時間ができてもよいという業態は、一人ひとりから高額な報酬が得られるものです。完全予約制という言葉に高級感が漂っているのは、そのシステムに伴うロスの部分も顧客が負担しているからにほかなりません。
しかし、保険診療の医療は、限られた人のみが受けられる高級なサービスではありません。誰もが平等にその恩恵を享受するためには、予約制の導入は難しいと思われてきた歴史があります。