前回は、クリニックの開業に大きく影響する「人口減少」の問題について考察しました。今回は、クリニック経営に「医療保険支出の増加」がもたらすリスクとは何かを見ていきます。

医療保険支出が膨らみ、政府は診療報酬減額を検討

人口だけではありません。日本は、国民皆保険制度のおかげで誰もが質の高い医療を受けられるようになっていますが、その反面その利便性のよさから「コンビニ受診」ともいわれるように、患者が気軽に医療機関にかかることが多くなりました。

 

少しでも身体の不調を感じた患者に、医療機関に来ていただくことは決して悪いことではないのですが、その結果として医療保険支出が膨らんだため、政府は医療支出の削減に努めています。

 

図表1は医療保険の総費用と、国内総生産(GDP)に対する比率を示したものです。国民医療費は右肩上がりに伸び続け、GDP比もどんどん上がっています。

 

[図表1]医療保険総費用の推移

出所::厚生労働省
出典:みんなの介護ニュースホームページ
出所::厚生労働省
出典:みんなの介護ニュースホームページ

 

少しでも医療費用(社会保険費)を減らしたい政府は、近年医療における診療報酬額を減額改定することが増えてきました。

小さなクリニックは経営に行き詰る可能性も

以下の図表2は診療報酬改定指数の推移と、賃金指数、および消費者物価指数を比較したものです。

 

[図表2]賃金・物価指数を大きく下回ってきた診療報酬改定指数

※1 厚生労働省「毎月勤労統計調査」賃金指数(現金給与総額、事業所規模30人以上)による。
※2 総務省統計局「消費者物価指数年報」による。
※3 厚生労働省発表全体改定率。

出典: 中央社会保険医療協議会「第18回医療経済実態調査(医療機関等調査)結果報告に対する見
解」(平成23年)
※1 厚生労働省「毎月勤労統計調査」賃金指数(現金給与総額、事業所規模30人以上)による。
※2 総務省統計局「消費者物価指数年報」による。
※3 厚生労働省発表全体改定率。
 
出典: 中央社会保険医療協議会「第18回医療経済実態調査(医療機関等調査)結果報告に対する見解」(平成23年)

 

80年代のバブル景気を受けて賃金や物価が上昇する中で、診療報酬はむしろマイナスに改定されてきました。これは、患者にとっては医療費負担が相対的に少なくなることで社会的にはよい効果をもたらしました。

 

その後90年代にかけて、遅ればせながら診療報酬もプラス改定されましたが、2000年代になるとデフレを反映して、再びマイナス改定が続くようになりました。

 

診療報酬の改定は、小さなクリニックの経営にはダイレクトに影響するので、今後も目を離すことができません。また、診療報酬については、コンプライアンスに厳しい世情を受けてレセプト(診療報酬明細書)に対する審査も年々厳しくなっています。

 

人手の不足しがちな個人クリニックにとっては、レセプトの作成も大変な作業ですから、あまり歓迎できない事態です。

本連載は、2017年1月26日刊行の書籍『自己資金ゼロ・ローリスクで 儲かるクリニックを開業する方法』(幻冬舎メディアコンサルティング)の本文から一部を抜粋したものです。

自己資金ゼロ・ローリスクで 儲かるクリニックを開業する方法

自己資金ゼロ・ローリスクで 儲かるクリニックを開業する方法

市川 直樹

幻冬舎メディアコンサルティング

勤務医は慢性的な医師不足で時間外の労働が多く、給与も働きに見合わず、過酷な労働環境におかれています。 一方、そうした状況から理想の医療の実現を目標に開業する医師もいますが、都市圏のクリニックは今や乱立状態にあり…

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