複数の業者に募集を依頼する「一般募集」の仕組み
具体的な戦略に入る前に、客付けの仕組みを確認しておいていただきたいと思います。専任媒介の場合と一般媒介の場合とで違ってくるのはおわかりでしょう。図表1をご覧ください。
[図表1]
まず一般媒介を主体とした一般募集についてお話しします。一般募集は複数の業者に募集をお願いします。この図では3社となっていますが、10社でも20社でも良いのです。
さてここにA社、B社、C社といった3社に媒介を任せた大家さんがいたとします。この場合の3社のことを「元付け」といい、「物元業者」と呼んだりします。このうちA社はD社、E社、F社といった業者にこの大家さんの物件情報を流しました。このD社、E社、F社の3社を「先付け」といい、「客付業者」と呼んだりします。ここでは客付業者は3社としていますが、実際はレインズに登録すると、数百社という業者が物件の詳細を閲覧可能となり、客付可能となります。この客付けによって物件が決まるということは、よくあることです。
たとえば、A社から情報を得たF社が、自社の広告にお問い合わせをしてきたお客さまにこの物件を紹介して成約したとします。この場合の契約書は、A社のものを使います。審査基準もA社に従います。そしてお金の流れですが、F社はお客さまから「仲介手数料」を賃料の半月分~1ヶ月分いただきます。
A社は大家さんから「広告料」を1ヶ月分~2カ月分いただくという流れになります。ここで仲介手数料を半月分としているのは、大手チェーン店などがそうしているからです。実際はお客さまが了承すれば1ヶ月分をいただけるので、1ヶ月分をいただいている業者が多いです。
宅建業法では、賃貸の媒介の場合の手数料の上限は、貸主と借主の双方を合わせて1ヵ月分としています。このケースでは貸主からは仲介手数料はいただかないため、借主から1ヶ月分をいただくことになります。A社は、大家さんから広告料を1ヶ月分~2ヶ月分いただくとなっています。通常大家さんが業者に支払う広告料は家賃の1ヶ月分ですが、最近は首都圏でも2ヶ月分を支払う大家さんが出てきました。それでこの図表2でもそのように表示してあります。これで、F社とA社がそれぞれ手数料を得ることになります。こういう取引を「分かれ」といい、「片手取引」と呼んだりします。
[図表2]
大家と借主の双方から手数料が入る「直接媒介契約」
さて、それではA社が自社の広告によりお客さまをご案内し、成約になったとします。この場合A社は、お客さまから仲介手数料を賃料の半月分~1ヶ月分いただき、さらに大家さんから広告料を1ヶ月分~2ヶ月分いただくことになります。つまりA社は双方から手数料を得ることができるのです。これがいわゆる「両手取引」といわれているものです。通常どこの業者でもこの両手取引を狙っています。当然です。1回の取引で片手取引の2倍の売上げを得ることができるからです。
これで不動産業者がどうして大家さんから直接媒介契約を取ろうとするのか、もうおわかりですね。ここでいうA社、B社、C社のような立場になれば、客付業者に情報を流して客付業者経由で契約を決めることができるし、この例のように直接お客さまを客付けできれば、双方から手数料をもらうこともできるので、売上げが上げやすいためです。このような立場になった業者は、頑張ります。ただし、この一般募集の弊害は、他社も募集しているのがわかるため(つまり一般募集であることがわかるため)、逆に自社の専任物件や管理物件を優先する業者が出てくることです。