シーシ大統領の人気継続の鍵は「国民生活の維持安定」
1981年から30年にわたり独裁政権を握ってきたムバラク大統領が、2011年に勃発した「アラブの春」と呼ばれる反政府運動により失脚。その後、イスラム原理主義勢力と世俗勢力との対立や度重なる政権交代により、政局は混迷状態に陥り、経済状況も低迷が続いた。
そうした暗雲がたちこめる中、2014年6月に前国防相のシーシ氏が新大統領に就任。軍の力を背景とした強い指導力に期待されたシーシは、90%を超える高い得票率で当選。この結果から、大多数のエジプト人が望むのは「政治や社会の安定」であることが明らかになった。シーシ人気継続の鍵は国民生活の維持安定にかかっているといえよう。
治安の悪化による「観光業」への大打撃
アラブの春以降における国内政治の混迷が、海外からの直接投資の減少、観光業の不振、若年層の雇用問題等を引き起こし、エジプト経済の実質GDP成長率は年2%台にとどまってきた。
中でも観光業はエジプト経済を支える柱となっているが、2015年にエジプトへの観光客が空爆や誤射により死亡する事件が相次ぎ、こうした治安の悪化による観光業への大打撃からいまだに立ち直れていない。
新大統領就任により治安回復に期待がかかるエジプトに対して、IMFは2015年度の実質GDP成長率を3.5%と予測するなど、ある程度の景気回復を見込んでいる。外貨収入が見込める部門を強化する経済政策が治安の回復に向けての鍵を握る。
「第2スエズ運河開通」に寄せられる経済効果への期待
2015年、スエズ運河の一部を拡幅・複線化する新運河の工事が完了した。アジアと欧州を結ぶ要衝の地であるスエズ運河は、パナマ運河を通過できる船舶よりも、はるかに大きな船舶が航行できる利便性がある。
国際貿易において、紅海と地中海を結ぶスエズ運河と、太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河は競合関係にあるが、近年、通行料・航行日数等の面からスエズ運河の優位性が強まりつつある。
第2スエズ運河の完成に伴い、通航料収入が例年の3~5倍に増収すると見込まれており、その経済効果に大きな期待が寄せられている。