「娘にも娘の生活がある」74歳女性が見つけた新しい日常
ある日、美佐子さんは娘に電話をかけ、率直な気持ちを伝えました。
「近くに引っ越したのに、なかなか会えないね」
娘は少し申し訳なさそうに答えました。
「ごめんね。仕事もあるし、週末は子どもの予定もあって。でも、お母さんが近くにいると思うと安心なんだよ」
その言葉を聞いて、美佐子さんは複雑な気持ちになったといいます。
「娘にとっては、私が近くにいることが安心なんですね。私は、もっと一緒に過ごせると思っていたんです」
内閣府『令和8年版 高齢社会白書』によると、65歳以上の女性のうち、一人暮らしの人の割合は1980年の11.2%から2020年には22.1%に増加しました。2050年には29.3%になると見込まれています。
また、総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果の概要』では、65歳以上の単身無職世帯の月平均可処分所得は11万8,465円、消費支出は14万8,445円でした。平均では毎月約3万円の不足が生じています。高齢期の一人暮らしでは、日々の生活費に加え、住まいの維持費や将来の支出も考えておく必要があります。
美佐子さんは、娘との距離を理由に選んだ住まいで、自分自身の生活をどう充実させるか考え始めました。
それまで共用ラウンジにはほとんど足を運んでいませんでしたが、入居者向けの体操教室に参加することにしたのです。
「最初は知らない人ばかりで緊張しました。でも、同じように一人暮らしをしている方もいて、少しずつ話せるようになりました」
今では週に1回、教室で知り合った人とお茶を飲むこともあります。近所の図書館にも通い始め、以前より外出する機会が増えました。
娘とは、互いの都合が合うときに食事をする約束をしています。
「もちろん、もっと会えたらうれしいです。でも、娘が来るのを待つだけで毎日を過ごすのは、もったいないと思うようになりました」
美佐子さんは、住み替え自体を後悔していません。買い物や通院が便利になり、家の管理に追われることも減りました。
高齢期に子どもの近くへ住み替える際は、緊急時の安心感だけでなく、普段どの程度会えるのか、互いの希望を確認しておくことも大切です。住み替え先で自分自身の交流や楽しみを持てるかどうかも、その後の暮らしを左右するでしょう。
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