「迷惑をかけたくなかった」母が一人で抱え込んだ不安
由紀さんは、母親がまだ送金していないことを確認し、ひとまず安心しました。
「お母さん、今はお金を払わなくていいよ。まず本当に請求があるのか、確認しよう」
文子さんはうなずいたものの、落ち着かない様子でした。
「でも、あの人は明日までって言っていたのよ」
由紀さんは、相手が指定した番号には折り返さず、請求内容を確認する必要があることを説明しました。
その夜は母親と一緒に過ごし、翌朝、消費生活センターに相談。身に覚えのない料金を口実にした架空請求が疑われるとして、支払いに応じないよう助言を受けました。
国民生活センター『2024年度のPIO-NETにみる消費生活相談の概要』によると、2024年度の消費生活相談は約91万件に上り、契約当事者が70歳以上の相談は約24万件でした。高齢者が消費者トラブルに巻き込まれる事例は、決して少なくありません。
由紀さんが気になったのは、母親が何時間も一人で悩んでいたことでした。
「どうして最初の電話のあと、すぐに連絡してくれなかったの?」
すると、文子さんは小さな声で答えました。
「あなたも仕事があるでしょう。こんなことで呼び出したら悪いと思って」
由紀さんは、母親が以前から同じようなことを口にしていたのを思い出しました。重い荷物を運ぶときも、体調が優れないときも、文子さんは「自分でできるから」と言って、なかなか助けを求めませんでした。
「今回も、できれば自分で解決したかったんでしょうね。でも、怖くてどうにもならなくなって、やっと電話してくれたんだと思います」
由紀さんは、困ったことがあれば時間を気にせず連絡してほしいと伝えました。また、知らない番号から金銭を要求された場合は、その場で判断せず、いったん電話を切ることも約束しました。
「夜中でも、電話してくれてよかったよ」
そう言うと、文子さんは少し笑って、「本当に怖かったの」と打ち明けたそうです。
その後、由紀さんは母親と相談し、スマートフォンの迷惑電話対策を見直しました。消費生活センターの相談窓口や警察相談専用電話「#9110」の番号も、電話のそばに書いて置いています。
「母が一人で暮らしている以上、私がすべての電話に気づくことはできません。だからこそ、困ったときに相談してもらえる関係でいたいと思いました」
高齢者を狙う不審な電話では、支払い期限を迫ったり、家族への相談を妨げたりする手口が使われます。離れて暮らす親が不安を抱え込まないよう、普段から困り事を話せる関係をつくり、相談先を共有しておくことが大切でしょう。
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