「あのとき行っておけば…」貯蓄があっても取り戻せない時間
昭彦さんは73歳頃から膝の痛みを訴えるようになり、75歳を過ぎると長い距離を歩くことが難しくなりました。整形外科に通いながら生活していますが、最近は外出を控える日が増えています。
「以前は車でどこへでも行けたんです。でも今は、駐車場からお店まで歩くのも大変なことがあります」
ある日、千鶴さんが久しぶりに外食を提案すると、昭彦さんは意外な返事をしました。
「そうだな。たまには外で食べようか」
千鶴さんは喜び、以前から気になっていた和食店を予約しました。
しかし当日、昭彦さんは膝の痛みが強く、出かけるのを取りやめることになったのです。
「夫も残念そうでした。あんなに外食を嫌がっていた人が、『また今度にしよう』と言ったんです」
その言葉を聞いたとき、千鶴さんは5年前のことを思い出しました。
「まだ元気に歩けた頃に、もっと出かけておけばよかったと思いました。あの頃なら、何も心配せずに楽しめたのに」
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、月平均の可処分所得が22万1,544円、消費支出が26万3,979円で、毎月4万2,434円の不足が生じています。老後の家計では、貯蓄を取り崩す場面も想定しておく必要があります。
千鶴さん夫婦の場合、生活費は年金収入を中心に賄い、貯蓄も大きく減っていません。それでも千鶴さんは、以前のように外出できなくなった夫を見て、複雑な気持ちになるといいます。
「5年間外食を我慢しても、節約できたのはせいぜい数十万円でしょう。もちろん大切なお金ですけど、今はそのお金を使ってでも、元気だった夫と食事をしたかったと思うんです」
昭彦さんも最近は、「あの頃、もう少し出かけてもよかったな」と口にするようになりました。
現在、夫婦は無理のない範囲で楽しみを探しています。歩く距離の短い店を選び、体調のよい日に近場へ出かけることもあるそうです。
「これからできることもありますからね。今度こそ、行けるときに行こうと思っています」
老後の支出を考える際には、将来必要になるお金を確保するとともに、今の体力や健康状態で楽しめることにも目を向けたいものです。夫婦で過ごせる時間をどう使いたいのか、元気なうちに話し合っておくことが、後悔を減らすきっかけになるでしょう。
【関連記事】
■月20万円もらえるはずが…45歳・サラリーマン「ねんきん定期便」に抱いた違和感。「年金ルール」知らずにそのまま20年…65歳で受け取ることになる年金額に唖然「何かの間違いでは?」
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

