「迎えに来てもらえない?」娘に送った切実なメッセージ
ある朝、和夫さんが腰を痛め、車の運転を控えることになりました。病院で診察を受け、しばらく安静にするよう勧められたといいます。
「夫が運転できなくなって初めて、私たちの生活がどれほど車に頼っていたか分かりました」
食料品は買い置きがありましたが、数日後には不足するものが出てきました。
タクシーで買い物に行くことも考えたものの、往復の料金は数千円かかります。近所に宅配サービスはありましたが、利用できる曜日が限られていました。
さらに明子さん自身も、以前から通っていた診療科の受診を予定していました。
「夫の腰が治れば、また運転してもらえる。でも、次に同じことが起きたらどうするんだろうと思って」
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、高齢者が普段の外出で利用する交通手段は「自分で運転する自動車」が46.6%、「家族などの運転する自動車」が27.1%でした。高齢期の移動を、自家用車が支えている実態がうかがえます。
明子さんは悩んだ末、首都圏で暮らす42歳の娘・沙織さん(仮名)にメッセージを送りました。
「こんなこと頼んでごめんね。少しの間、そっちに帰ってもいいかな。正直、ここで暮らしていくのが不安なの」
沙織さんからは、すぐに電話がかかってきました。
「お母さん、そんなに困ってたの? もっと早く言ってくれればよかったのに」
明子さんは、これまで感じていた不便さを初めて打ち明けました。
「お父さんはここが気に入っているし、私が我慢すればいいと思っていたの。でも、車が使えないだけで、こんなに困るなんて」
沙織さんは、まず食料品の宅配や地域の移動支援について調べることを提案。明子さんも町役場に問い合わせ、利用できるサービスを確認しました。
その後、和夫さんとも話し合いました。
「私は、もう少し便利なところに住みたい。あなたが運転できなくなったら、ここで暮らす自信がないの」
和夫さんは当初、移住して間もない家を手放すことに難色を示しましたが、妻の不安を聞き、今後の住まいについて考え直すことにしました。
現在、夫婦はすぐに再転居するのではなく、近隣の市街地にある賃貸住宅も含めて情報を集めています。
「田舎暮らしそのものが嫌いになったわけじゃないんです。ただ、これから年を重ねることを考えると、生活の便利さも必要だと思いました」
高齢期の移住では、住環境の魅力だけでなく、買い物や医療機関へのアクセス、公共交通機関の運行状況なども確認しておくことが重要です。車を運転できなくなった場合も想定し、長く安心して暮らせる場所かどうか、夫婦で十分に話し合っておきたいものです。
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