「やっちまった…」年収1,200万円・42歳エース社員、社運を賭けた「再開発プロジェクト」で5億円の損害。社長激怒も、当人に賠償請求できない理由【社労士が解説】

「やっちまった…」年収1,200万円・42歳エース社員、社運を賭けた「再開発プロジェクト」で5億円の損害。社長激怒も、当人に賠償請求できない理由【社労士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

会社員として働くうえで、自分のミスが会社に多大な損害を与えてしまったら「全額弁償させられるのだろうか」と不安になることがあるかもしれません。逆に経営者側は「重大な過失は責任を取らせたい」と考えるでしょう。本記事では、虚偽の報告によって会社に約5億円の損害を与えた年収1,200万円の42歳営業課長の事例をもとに、従業員に対する損害賠償請求の法的なハードルを社会保険労務士が解説します。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。

【社労士が解説】従業員への損害全額請求に立ちはだかる「高いハードル」

会社から従業員個人や身元保証人へ損害全額を請求することには、法的に高いハードルが存在します。

 

労働基準法第16条の誤解

労働基準法第16条には「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額の予定をする契約をしてはならない」という規定があります。これは「ミスをしたら罰金1,000万円」といったように、あらかじめ賠償額を定めておくことを禁じるものです。民法に基づき、事後的に「実際に発生した損害」を請求すること自体は違法ではありません。しかし、全額を請求できるかというと別の話になります。

 

「報償責任の原則」と裁判所の厳しい判断基準

過去の最高裁判例では、従業員のミスによる損害について、会社が請求できる金額は「信義則上相当と認められる限度(通常は損害額のごく一部)」に制限されると示されています。会社は普段、従業員の活動によって利益を得ている以上、そこから生じる損失リスクも会社が負担すべきという「報償責任の原則」があるためです。

 

裁判所は、従業員の過失の程度、地位や責任、会社の管理体制などを総合的に判断します。今回のケースはAさんの部下の警告を無視した「重過失」に該当する可能性が高いものの、「一人の課長に数億円の決裁を丸投げしていた」「社長自身が未確認事項を認識しながらハンコを押した」という会社側の管理体制の甘さも厳しく問われます。

 

結果として、数億円の損害全額はおろか、請求できたとしても損害額の数%〜十数%程度に制限される可能性が高いのが現実です。

入社時に親が実印を押した「身元保証書」は数年で“ただの紙切れ”になる?

社長は、入社時に実印を押した身元保証人(父親)にも連帯責任を取らせようとしていますが、ここにも「身元保証法」という盾が存在します。

 

身元保証契約の「有効期間」

身元保証の契約期間は法律で厳格に定められており、期間の定めがない場合は「原則3年」、定めた場合でも「最長5年」です。自動更新は認められません。Aさんが入社したのは15年前であり、定期的な更新手続きを行っていなければ、その契約はすでに無効となっています。

 

使用者(会社)の「通知義務」

仮に契約が有効だったとしても、会社には法律上の「通知義務」があります。従業員が役職に就き、会社に損害を与えるリスクが跳ね上がった際、会社は遅滞なく身元保証人にその旨を通知しなければなりません。この通知を怠ると、身元保証人は「そんな重責とは知らなかった」として契約解除を主張でき、裁判でも賠償責任が大幅に減額・免責されるのが一般的です。

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