「道理で話が噛み合わないわけだ…」
筆者のところに相談が来たときも、最初に聞いていた会社の概要は同じでした。
●年商2億円
●利益1,400万円
●従業員6人
●特殊な建設業で、建設業許可あり
●取引先は大手ゼネコン
筆者は「この内容なら、十分M&Aを検討できる会社だろう」と思っていました。
もちろん、5,000万円で売れると決まったわけではありません。M&Aの価格は、決算書の数字だけでは決まりません。財務内容、今後の収益性、取引先との関係、従業員、技術、許認可、そして買い手との相性など、さまざまな要素によって変わります。
それでも、少なくとも「買い手を探してみましょう」という話にはなるだろうと思っていました。
ところが、面談を始めてしばらくすると、どうも話が噛み合いません。
そこで筆者は、あらためて確認しました。
「社長、年商2億円、利益1,400万円というのは、今の数字ですよね?」
返ってきた答えは、予想していなかったものでした。
「2年前です」
「えっ…2年前ですか!? では、今の売上は?」
話を聞いていくと、現在は事業をほとんど行っていないことが分かりました。会社は、ほぼ休眠状態です。
「職人さん6人は?」
「もういません」
従業員はゼロになっていました。2年前には、特殊な工事を手掛ける職人が6人いた。しかし現在、その組織はもうありません。
そして借入金について確認すると、約3,000万円。こちらは残っていました。
つまり、高橋社長がSNSやM&Aセミナーなどを見ながらイメージしていた、「年商2億円、利益1,400万円の建設会社を5,000万円くらいで売却する」という話は、そもそもの前提が違っていたのです。それは「2年前の高橋建工」の話でした。「今の高橋建工」ではありません。
事業実態ほぼナシ、従業員ナシ、借金は3,000万円
ここで非常に厳しい話をしなければなりません。現在の状態では、5,000万円で売るという話ではありません。
では、3,000万円でしょうか、1,000万円でしょうか。残念ながら、そういう話でもありません。「0円なら誰かが引き取ってくれる」という状態ですらありません。
事業はほぼ動いていない。従業員はいない。一方で、借金は3,000万円残っている。買い手からすれば、会社を引き継ぐことで得られる事業上のメリットが乏しい一方、負債の問題は残っています。
もちろん、実際の企業価値は個別に資産・負債や契約関係などを精査しなければ判断できません。しかし、少なくとも高橋社長が想像していた「5,000万円程度で会社を売却する」という状況からは、大きく離れてしまっていました。
高橋社長にとっては「5,000万円で売れると思って相談したら、0円どころか実質的にはマイナスだった」という、非常に厳しい現実です。
筆者も話を聞きながら、どうしてもひとつのことを考えてしまいました。
「2年前に相談してくれていたら…」
