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争点:「粉飾があった事実」を証明できるか
この裁決で争われたのは以下になります。
粉飾決算の内容などを含めて計算した株式の評価額が、過大であったといえるか。
◆納税者(Aさん)の主張
Aさんは、粉飾があったことの根拠を多数提出しました。
そのなかには、経理担当者が「本当の数字」と「粉飾後の数字」を書き留めていたという手帳のメモを一覧表に打ち直したものや、会社が経営再建の支援を受ける際に公認会計士が作成した「粉飾があった」との記載がある調査報告書の案なども含まれており、Aさんは、これらの資料によって粉飾の事実は明らかであると主張しました。
◆税務署の主張
それに対し税務署は、Aさんが提示した資料について「客観的な裏付けがない」と反論しました。
粉飾の裏付けとなる伝票や仕訳データはすでに残っておらず、現存する資料は、関係者の説明をもとに後から作り直されたものにすぎないのではないかというのが税務署の立場です。
公認会計士による調査報告書の案についても、税務署は「粉飾を裏付ける資料がない状態で、会社側の説明を前提に推測・推計で作成されたものにすぎない」と指摘し、Aさんの主張を認めませんでした。
国税不服審判所は、粉飾の事実は認められないと判断
国税不服審判所は、Aさんが用意した証拠だけでは粉飾の事実を認めることはできないと判断しました。
Aさんが根拠とした経理担当者の手帳は、それ自体すでに廃棄されていたため、粉飾の内実が書かれていたとされる一次資料は誰も確認できません。残っていたのは、事後的に作成された一覧表と経理担当者の陳述書のみでしたが、これらの資料からは「毎月いくら水増ししていたのか」といった具体的な粉飾の内訳が読み取れず、証拠としては不十分だと判断されました。
公認会計士による調査報告書の案についても、会計士自身が「粉飾を裏付ける資料は確認できていない」と注記していたことが、証拠としての正当性を揺るがす大きな要因となりました。
こうして、Aさんが積み上げた証拠は、いずれも「粉飾の事実を証明しきれていない」と判断され、Aさんによる更正の請求は棄却という結果に終わりました。
「本当にあった」だけでは認められない…更正の請求で問われる証拠の重要性
この事例は、税務の世界において、「事実であること」と「事実だと認められること」がはっきりと区別されることを示しています。国税不服審判所も「粉飾があった」という事実自体を否定したわけではなく、「あったことを証明できなかった」と判断したにすぎません。両者の違いは小さいようで、実は大きな違いです。
更正の請求を行う際、その事実を立証する負担は納税者が負っています。Aさんが主張していた粉飾決算が本当にあったのか、今となっては誰にも分かりません。しかし、こうした「本当にあったはずのこと」が、形として残存する証拠記録の不足によって、後から主張できなくなるケースは少なくありません。伝票、仕訳データ、帳簿など、一見地味な記録が、何年も経ったあとに、数千万円単位の資産の行方を左右することがあるのです。
高橋 創
税理士
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