2LDKを“最後の住まい”に決めた理由
引っ越し後、和美さんが最初に実感した変化は、意外にも「便利になったこと」ではなかったといいます。
「家の心配をする時間が、すごく減ったんです」
一戸建てでは、台風が来れば屋根や雨戸が気になり、夏になれば庭の雑草が伸びます。給湯器が古くなれば、次はどこを直すことになるのかと考えていました。
マンションでも管理費や修繕積立金は毎月かかります。専有部分の設備については、自分たちで修理や交換をしなければなりません。それでも、外壁や共用部分を夫婦だけで管理する必要はなくなりました。
生活の動線も変わりました。
朝、和美さんがスーパーへ歩いて出かけ、達夫さんは近くの公園まで散歩する。通院も徒歩や電車で済むため、車を使う機会は大幅に減りました。
内閣府の同調査では、60歳以上が外出する主な目的として、「近所のスーパーや商店での買い物」が80.4%、「通院」が69.9%となっています。また、現在の地域で不便に感じることとして、23.9%が「日常の買い物」、23.8%が「医院や病院への通院」、21.5%が「交通機関」を挙げています。
一方で、住み替えればすべてが良くなるわけではありません。
以前は子ども一家が泊まりに来ても十分な部屋がありましたが、現在は客間を設けていません。初めて長男から「今度、家族で泊まろうかな」と言われたとき、和美さんは少し寂しさを感じたそうです。
「もう泊まる部屋はないよ、と言ったら、『じゃあ近くにホテル取るよ』って。ああ、本当にあの家を手放したんだなと思いました」
長く暮らした家を離れたことへの寂しさが、まったくないわけではありません。それでも、達夫さんが最近口にした言葉で、和美さんは「これでよかった」と思えたといいます。
「ここなら、80歳を過ぎても普通に暮らせそうだな」
和美さん夫婦は、一戸建てだから暮らしにくかったと考えているわけではありません。子育て中には必要だった4LDKが、70代になった自分たちの生活には合わなくなっていただけだといいます。
「前の家もいい家でした。でも、最後まで住む家ではなかったんでしょうね」
広さを手放し、夫婦が選んだのは、将来どちらか一人になったときにも生活を続けやすい住まいでした。今だけでなく、その先まで想像したことが、「最後の住まい」を決めるきっかけになったようです。
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