それでも崩壊とは言えない
もっとも、これを直ちに「ドバイ不動産バブル崩壊」と判断するのも早計だ。象徴的なのが超高級住宅だ。2026年上半期には1000万ドル以上の住宅が296件売買され、前年同期を16%上回った。
取引額も51億ドルに達した。ナイト・フランクは、登録まで数週間の時間差があるため開戦前の契約が相当含まれているとしながらも、富裕層向け市場の基礎的需要自体は失われていないと分析している。
さらに住宅市場を下支えするのが賃貸需要である。2026年上半期時点でもドバイの1ベッドルーム住宅の表面利回りは平均約6%との調査があり、「ジュメイラ・ビレッジ・サークル」などでは6%台後半に達する。
「値上がり益を狙う市場」から「賃料収入を吟味する市場」に変わるなら、投資対象としての魅力が完全になくなるわけではない。
戦争だけに目を奪われると、もう一つのリスクを見落とす。供給増である。ナイト・フランクによれば、2026年には登録ベースで16万戸を超える住宅が供給パイプラインに入っている。すべてが予定通り完成する可能性は低いものの、過去数年間の年間竣工量約3万~4万戸と比較すればかなり大きい。
これまでなら大量供給を人口増加と海外マネーが吸収できた。だが、戦争によって国外投資家が様子見に入り、そこへ新築物件の供給が重なれば、「投資家需要の減少」と「供給増」が同時に訪れることになる。
特に注意したいのがオフプラン、つまり完成前物件だ。将来の値上がりを前提として購入した投資家が、完成時に売却しようとしても買い手が見つからない――。今後、市況がさらに悪化すれば、そうした出口リスクが顕在化する可能性がある。
日本人には「為替」という第三のリスク
日本の投資家にはもう一つ注意点がある。
UAEディルハムは米ドルとの固定相場制を採用している。UAE中央銀行は1ドル=約3.67ディルハムのペッグを維持しているため、日本人がドバイ不動産を購入することは、実質的には不動産投資と同時にドル・円の為替リスクを取ることになる。
物件価格がディルハム建てで10%上昇しても、その間に円高・ドル安が進めば円換算した利益は減少する。
反対に円安なら利益が膨らむ。日本国内の不動産とは違い、「物件価格」「賃料」「地政学」「為替」という少なくとも4つの変数を同時に考えなくてはならない。現時点で「ドバイだから買う」という判断は危険だろう。
むしろ新規投資家であれば、市場が戦争後の新しい価格水準を形成するまで待つ選択肢に合理性がある。
売買件数は減っているものの、価格下落はまだ地域によってばらつきが大きい。売り手が過去5年間の高値を基準に価格を提示する一方、買い手は地政学リスクを織り込み始めている。両者の価格観が一致するには時間が必要だ。
それでも投資するのであれば、狙うべき対象は絞られる。完成済みで実際の賃料を確認できる物件、実需層の厚い住宅地、供給が限定されるヴィラ、そして購入価格に対して十分な賃貸利回りを確保できる物件である。
逆に、完成まで数年を要し、「完成時にはさらに値上がりする」という前提だけで購入するオフプラン投資は、これまで以上に慎重さが求められる。


