実家で見つけた父の通帳
葬儀やさまざまな手続きが一段落し、Aさんは実家の片付けを始めました。そのなかで、父親が使っていた通帳や家計関係の書類も確認することに。そしてAさんは、思いもよらない事実を知ります。
「僕が送っていた5万円が、ほとんど残っていたんです」
父親の年金が振り込まれる口座とは別に、Aさんからの仕送りが入る口座がありました。そこには、Aさんが毎月振り込んできたお金が積み上がっていました。まったく使っていなかったわけではありません。家電の買い替えや家の修繕など、まとまった出費があったときには一部を使っていた様子です。
それでも、Aさんが想像していたように、「毎月の生活費に5万円を補填している」という状態ではありませんでした。
さらに実家からは、父親がつけていた簡単な家計簿も出てきました。年金、固定資産税、水道光熱費、食費、医療費……。一つひとつ確認すると、父親はかなり質素に暮らしていたようです。少なくとも日常生活については、年金の範囲内でおおむね成り立っていたことがわかりました。
Aさんはそこで初めて気づきます。
「親父は、別に5万円がないと生活できなかったわけじゃなかったんですよね」
父親の死をきっかけに、相続した資産を含めた今後の家計について、AさんはFPである筆者のもとを訪れました。相談のなかで、Aさんは何度もこう口にしました。
「なんで父は最初に『いらない』っていってくれなかったんでしょう」
亡くなった父親の本当の気持ちを確認することはできませんが、筆者はAさんにこう伝えました。
「最初にお父さまは『こんなことしなくていい』とおっしゃっていたんですよね」
Aさんはしばらく黙っていました。父親は、一度は断っていたのです。それでもAさんが「生活費に使ってよ」といったため、その後は受け取り続けた。もしかすると父親にとっては、息子からの仕送りを断らずに受け取ることも、一つの親孝行を受け入れる行為だったのかもしれません。あるいは、息子の気持ちを無下にしたくなかっただけなのかもしれません。真相はわかりません。
ただ一つ確かなのは、Aさんと父親が、「本当に毎月5万円が必要なのか」について、4年間一度も具体的に話したことがなかったということです。
