老後不安を軽減する「公的年金の繰り下げ受給」という最強戦略…増加の割合を具体的な数字でシミュレート【CFPが解説】

老後不安を軽減する「公的年金の繰り下げ受給」という最強戦略…増加の割合を具体的な数字でシミュレート【CFPが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

自分の寿命まで、自分の資産は持つのだろうか? そんな不安を抱えている人は多いのではないでしょうか。資産寿命を延ばすための有効な手段の1つ「年金の繰り下げ受給」です。戦略的に年金の受給方法を考えることは、自分の老後を考えるうえでとても大切です。具体的に見ていきましょう。本稿は、小林篤典氏の著書『父が溶かした退職金 【下】』(ゴールドオンライン新書)から一部を抜粋・再編集したものです。

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公的年金の「繰り下げ受給」を検討してみる

公的年金は、いつから受け取るかを自分で決められます。

 

●60歳〜64歳:繰り上げ受給(減額)

●65歳:通常受給

●66歳〜75歳:繰り下げ受給(増額)

 

ほとんどの人は65歳から受給を開始しますが、最近、繰り下げを選ぶ人が少しずつですが増えています。メリットが浸透してきたからかもしれません。

 

1ヵ月繰り下げるごとに年金額が0.7%増えます。つまり、

 

●1年繰り下げ:8.4%増

●5年繰り下げ:42%増

 

です。わかりやすくするために一例として金額にしてみましょう。

 

●65歳受給開始の年金額:月20.0万円

●70歳受給開始の年金額:月28.4万円(20.0万円 × 1.42)

 

この例では、年間100万円以上の差になります。しかも、これが一生続きます。

 

通常の金融商品では、このような条件はあり得ません。

 

1. 確実に増える

2. 一生もらえる(長生きリスクに対応)

3. 十分ではないがインフレ対応もする

 

これが、公的年金繰り下げの魅力です。かなり強力だと言っておきます。

繰り下げ受給の注意点

ただし、次の点に注意が必要です。

 

●注意1:収入源がなくなる期間がある

例えば5年繰り下げた場合、65歳から70歳になるまでの5年間、年金収入がゼロになります。長く働くか、貯蓄を取り崩す必要があります。

 

●注意2:社会保険料負担が増える可能性がある

年金額が増えると、健康保険料・介護保険料も増えます。窓口での自己負担割合が増える場合もあります。事前にシミュレーションしておきましょう。

 

●注意3:年の差夫婦は加給年金に注意

繰り下げると加給年金(厚生年金の家族手当のようなもの)がもらえなくなります。事前に年金事務所で影響を確認しましょう。加給年金を受け取るために厚生年金は繰り下げず、基礎年金だけを繰り下げる戦略も有効です。

 

これらの注意点はありますが、長生きリスクへの備えとして、年金繰り下げは極めて有効な手段です。私が推奨する戦略は、「5年繰り下げて70歳受給開始」をいったんの目標として仮置きし、まず繰り下げてみることです。

 

そして、資産の減り方を見ながら、年金が必要になったら受け取り開始の申請をすればよいのです。「何歳まで繰り下げます」と65歳時点で前もって申請する必要はありません。柔軟に対応できるのも繰り下げのメリットの1つです。もちろん、無理をしてはいけませんが。

年金の繰り下げ受給、損得だけで決めないほうがいい

繰り下げの話をすると、「何歳まで生きたら得なんですか?」と必ず聞かれます。損益分岐点が気になるのでしょう。損益分岐点は計算すれば求まります。税金や社会保険料を考慮しない簡易計算では、5年繰り下げた場合、約82歳で元が取れる。つまり、「82歳以上生きれば得、82歳より前に死ねば損」なのです。

 

しかし、よく考えてみてください。あなたはあの世に行ってから「ああ、繰り下げなければよかった……」と後悔するのでしょうか。あの世の心配までしなくてもよいのではないですか。一方で、「ああ、繰り下げておけばよかった……」と後悔するのはこの世です。

 

私は、繰り下げは損得で決めないほうがよいと考えています。大切なのは、「もし長生きしても、お金に困らないようにする。周りに迷惑をかけないようにする」という考え方です。

 

何歳まで生きるかは、誰にもわかりません。だからこそ、最悪の場合(予想以上の長生き)に備える。これが、年金繰り下げの本質です。

 

年金の繰り下げ受給は、「確実に増える話」であり、しかも「どれだけ長生きしても必ず受け取り続けることができる」という「不確実なことに対応してくれる」通常の金融商品では得られないメリットがあります。利用する価値は大きいです。

繰り上げ受給はできる限り選択しない

繰り下げの話ばかりしてきましたが、「繰り上げ受給」という選択も可能です。最大5年繰り上げて60歳から受給を開始することができます。1カ月の繰り上げごとに年金額が0.4%減るので、例えば、5年繰り上げて60歳受給開始にすると、65歳受給開始の年金額と比べて24%減ってしまいます。

 

繰り上げ受給はデメリットばかりです。「早くもらい始めること」以外に、うれしいことは何もありません。いまの生活が苦しくて、どうしても年金を受け取らないと生活できないのなら仕方ないですが、繰り上げることなく乗り切れないかを考えていただきたいです。

 

 

※ 本記事は書籍の内容を抜粋・掲載したものであり、最新の法令・制度とは異なる場合があります。実務にあたっては必ず最新の情報をご確認ください。

 

小林 篤典
FP事務所 きずな 所長

 

 

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