70歳夫婦が団地へ移って「手放せたもの」
戸建ては約3,600万円で売却できました。引っ越し費用などを差し引いてもまとまった資金が手元に残り、夫婦はそれを今後の生活費や予備費として確保しました。
UR賃貸住宅では、申込者の収入が基準に満たない場合でも、一定額以上の預貯金があれば申し込める「貯蓄基準制度」があります。基準貯蓄額は原則として月額家賃の100倍です。
新居で暮らし始めた当初、達夫さんは毎月引き落とされる家賃を見るたび、「やっぱりもったいなかったかな」と思ったといいます。
その感覚が変わったのは、半年ほどたったころでした。
ある夜、浴室の設備に不具合が出ました。達夫さんは管理窓口に連絡し、対応してもらいました。
そのとき、ふと思ったといいます。
「前の家なら、まず業者を探して、見積もりを取って、修理するか交換するか考えていたなって」
もちろん、賃貸住宅でも入居者の故意・過失などによる破損は自己負担になる場合があります。しかし、建物や設備を所有者として維持していく責任はなくなりました。
庭の草取りもありません。屋根や外壁の状態を気にすることもなくなりました。
「家賃は毎月払います。でも、いくらか分かっているでしょう。前の家は家賃こそなかったけど、『今年は何にいくらかかるんだろう』という感じだったんです」
美智子さんも「家賃を払うほうが気楽だったね」と話すようになりました。
国土交通省『令和5年住生活総合調査』では、65歳以上の夫婦世帯が今後の住み替えで住宅の質について重視する点として、「高齢者への配慮(段差がない等)」が約21%、「広さや間取り」が約19%、「維持管理のしやすさ」が約10%となっています。また、住宅周辺の環境では「日常の買物などの利便」が重視されています。
達夫さん夫婦も、住み替えてから車を使う回数が大きく減りました。
以前は週末にまとめて買い物をしていましたが、今は必要なものがあれば歩いて買いに行きます。2階も庭もなくなり、家のために使っていた時間も減りました。
持ち家と賃貸のどちらが老後に適しているかは、資産や収入、地域、家賃などによって異なります。長く住み続ければ、賃貸で支払う家賃の総額が大きくなる可能性もあり、持ち家を手放すことが必ず経済的に有利になるわけではありません。
一方、住居にかかる負担は毎月の金額だけでも測れません。修繕の判断や建物の管理、庭の手入れ、将来の移動手段まで含めて考えれば、家を「持たない」ことが暮らしやすさにつながる場合もあります。
達夫さん夫婦が手放したのは、家賃のかからない家でした。その代わりに得たのは、「この家をあと何年維持できるだろう」と考え続けなくてもいい生活でした。
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