「次からお祝いは送るよ」息子に伝えた父の本音
数日後、健太さんから電話がありました。
「この前はありがとう。すごく喜んでたよ」
敏夫さんは「それならよかった」と答えたあと、少し迷ってから切り出しました。
「次から、お祝いは送るよ」
「え? 来ないの?」
「お祝いを渡すだけなら、行かなくてもいいよね」
健太さんは驚き、「そんなつもりで呼んでるわけじゃないよ」と返しました。
敏夫さんも、それは分かっていました。息子夫婦がお祝いを期待して誕生日会を開いている、と決めつけていたわけではありません。
「分かってる。でも、最近は誕生日とか入学とか、何かあるときしか会ってないだろ。行って、お祝い渡して、飯食って帰る。それがちょっと寂しくなったんだよ」
電話の向こうで、健太さんはしばらく黙っていました。考えてみれば、敏夫さんが妻を亡くした直後は、健太さん一家も頻繁に顔を見せていました。
それが子どもたちの成長とともに減り、最近では会うのは誕生日や年末年始などの行事が中心になっています。家族の誰かが意図してそうしたわけではありません。
子どもには学校や習い事があり、息子夫婦にも仕事があります。敏夫さん自身も、「忙しいだろうから」と普段は連絡を控えていました。
その結果、家族が会う機会として残ったのが、お祝いを伴う行事だったのです。
内閣府の同調査では、65歳以上の72.5%が同居家族を含む誰かと「毎日」話している一方、「1週間に1回未満・ほとんど話をしない」人も6.0%います。電話やメール、SNSも含めた数字です。
翌月、健太さんから再び連絡がありました。
「今度の日曜、特に何もないけど、昼でも食べない?」
敏夫さんは息子一家と近所の店で昼食をとりました。誕生日ではないので、プレゼントもご祝儀袋もありません。食後には孫と本屋へ行き、欲しがった漫画を一冊だけ買いました。
「結局、お金は使ってるんですけどね」
敏夫さんは笑います。
ただ、以前とは違いました。お祝いをするために呼ばれたのではなく、会うために予定を合わせた。そのことがうれしかったといいます。
祖父母が孫にお祝いを渡すことと、家族との交流を楽しむことは、本来どちらか一方を選ぶものではありません。しかし、誕生日や入学など金銭のやり取りを伴う行事だけが会う機会になると、本人がその関係に寂しさを感じることもあるでしょう。
家族との関係は、会う回数だけで決まるものでもありません。何のために会っているのか、どのような時間を一緒に過ごしたいのか。敏夫さんの場合は、誕生日会で覚えた違和感を口にしたことで、「お祝いをする日」以外にも家族と会える関係を改めて作ることになりました。
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