「飯を作るだけじゃないんだな」1ヵ月後に夫が気づいたこと
和夫さんが最初に作ったのはカレーでした。
スーパーで肉と野菜、カレールーを買い、午後4時ごろから調理。裕子さんが帰宅すると、すでに夕食ができていました。
「おいしい。ありがとう」
そう言われると、悪い気はしませんでした。ところが、毎週続けるとなると話は別でした。
月曜日にカレーを作れば、水曜日は何にするのか。冷蔵庫に何が残っているのか。足りないものは何か。
「最初は料理さえすればいいと思っていたんです。でも献立を考えて、買い物して、作って、片づけるところまである。それを次の日もまた考えるんですよね」
ある日、冷蔵庫にキャベツが残っているのに、和夫さんがもう一玉買ってきたことがありました。
裕子さんに「冷蔵庫、見てから買い物に行った?」と聞かれ、「そこまで考えてなかった」と答えると、今度は裕子さんが笑いました。
1ヵ月ほどすると、和夫さんは月、水、金の夕食をほぼ一人で用意できるようになりました。洗濯も、裕子さんが仕事の日には和夫さんが担当します。
一方で裕子さんも、「毎日全部半分にしよう」と考えているわけではありませんでした。料理が好きな裕子さんは休日には自分で作り、和夫さんがゴルフに出かける日は担当を入れ替えます。
「50対50にしたいわけじゃないの。2人とも家にいる時間に合わせて変えたかっただけ」
その言葉を聞き、和夫さんもようやく妻が退職翌日に話を切り出した理由が分かったといいます。
退職後の暮らしでは、収入や資産だけでなく、夫婦がそれぞれ何を担うのかも変わります。一方が家にいる時間が大幅に増えても、もう一方が以前と同じ家事を担い続ければ、負担のバランスが合わなくなることもあるでしょう。
家事を完全に折半することが、すべての夫婦に適しているわけではありません。大切なのは、現役時代から続いてきた役割を当然のものとして固定せず、生活時間が変わったときに改めて話し合うことです。
和夫さんにとって65歳の退職は、会社員としての役割を終えるだけではなく、夫婦2人の新しい生活で、自分が何を担うのかを考え直す節目にもなりました。
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