東京から戻ってきた息子、働く兆しが見えないまま8ヵ月
地方都市で暮らす加藤誠司さん(72歳)と妻の藍子さん(68歳)は、静かで穏やかな老後を過ごしていました。「少し退屈」と思うことはあっても、そんな生活が続くと思っていたのです。
ところが、8ヵ月ほど前、東京で一人暮らしをしていた34歳の一人息子・達哉さんが突然、実家に戻ってきました。
「ただいま、しばらくよろしくね」
体を壊したから、少しの間休ませてほしいという息子の言葉を信じ、誠司さんも最初は温かく迎え入れました。
しかし、いまだに就職活動を始める気配はありません。日中はゲームに興じ、夜になるとふらりと外出する日々です。
「お前、体調がよくなったなら、早く仕事を探せよ」
誠司さんがそう促しても、達哉さんは曖昧な返事をするばかり。一方、一人息子を可愛がってきた藍子さんは、帰ってきてくれたことがうれしくて仕方ありません。
朝から好物の朝食を用意し、果物の皮をむいて出す。さらには「東京で大変だったんだから」と、毎月5万円のおこづかいまで渡していました。
そしてある日、達哉さんが何気なく口にした言葉に、誠司さんは背筋が凍る思いをします。
「もう東京で頑張らなくてもいいかな。ずっと実家にいるのもいいね」
――このままでは、息子の人生も、自分たちの老後も終わってしまう。誠司さんは震えました。
「このままでは老後資金が底をつく」…父の焦り
誠司さん夫婦の公的年金は、2人合わせて月24万円ほどです。住宅ローンはすでに完済していますが、食費や光熱費、通信費、医療費などを含めた生活費は月28万円ほど。もともと毎月4万円前後の赤字が出ており、不足分は貯蓄から補っていました。
2人の貯蓄は1,800万円。しかし、達哉さんが戻ってきてから状況は一変しました。
食費や光熱費などの生活費に加え、毎月5万円のおこづかいも発生し、家計から出ていくお金は月10万円近く増えました。このままでは、年間で170万円近いペースで貯蓄が減っていくことになります。
「一時的に助けるのはいい。でも、このまま一生いられたら、老後資金が底をつく。俺たちまで共倒れになるぞ」
誠司さんが訴えても、藍子さんは達哉さんを庇います。
「冷たい父親ね。親なら、子どもが苦しいときに支えるのが当たり前でしょ」
藍子さんにとって、達哉さんはいつまでも心配な存在。世話をすることが、いつしか藍子さん自身の生きがいのようにもなっていました。
