「運転できなくなったらどうする?」夫婦が考えた5年後の生活
「この先、車に乗れなくなったら、病院までどうやって行く?」
妻の和美さん(仮名・71歳)がそう尋ねると、夫の隆夫さん(仮名・71歳)はすぐには答えられませんでした。
夫婦が暮らしていたのは、地方都市の郊外に建つ築38年の一軒家。子ども2人を育てた4LDKで、住宅ローンは60代前半に完済しています。
現在は夫婦ともに年金生活で、2人合わせた年金収入は月約29万円、預貯金は約3,500万円。子どもたちは県外でそれぞれ家庭を持っています。
家そのものに大きな不満があったわけではありません。
スーパーまでは車で10分ほど。かかりつけの内科へは15分、総合病院なら30分ほどで着きます。隆夫さんが運転する現在は、日常生活で困る場面もほとんどありませんでした。
ただ、70歳を過ぎたころから、和美さんは「車があることを前提にした暮らし」が気になり始めます。
きっかけは、隆夫さんが免許更新から帰ってきた日のことでした。
「あと何回、更新するんだろうな」
自宅近くのバスは本数が少なく、最寄り駅までも歩いて30分以上かかります。タクシーを使えば移動できますが、通院や買い物のたびに利用する生活がいつまで続くのか。夫婦は初めて、今の家で80代を迎えたときの生活を具体的に考えるようになりました。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、現在住んでいる地域で「日常の買い物に不便」と答えた人は23.9%、「医院や病院への通院に不便」は23.8%、「交通機関が高齢者には使いにくい、または整備されていない」は21.5%でした。また、男女とも年代が高くなるほど「医院や病院への通院に不便」とする割合が高くなる傾向もみられます。
それでも、和美さんは最初から住み替えに前向きだったわけではありません。
子どもたちの身長を書き残した柱、毎年花を咲かせる庭木、長年使ってきた台所。家の中には、30年以上の暮らしが残っています。
「まだ元気なのに、わざわざ出ていく必要があるのかな」
迷いながらも夫婦が決めたのは、まず「車なしで暮らせる場所」を探してみることでした。
