「相続放棄は無理ですか!?」事務所に駆け込んでくる相談者
親が亡くなった後、とりあえず実家の固定資産税を支払ったが、その後に借金が見つかり「相続放棄したい」と焦る…。相続の現場では、そんなケースが時折見られます。
筆者の事務所にも「何も知らずに固定資産税を支払ってしまった。もう相続放棄は無理ですか?」という相談が多く寄せられています。
結論からいうと、固定資産税を支払ったからといって、直ちに相続放棄ができなくなるわけではありません。
ただし、支払いの経緯や財産の管理状況によっては注意が必要です。
そもそも相続放棄とは?
相続放棄とは、家庭裁判所に申述を行い「最初から相続人ではなかった」ものとする制度です。
相続放棄をすると「預貯金を受け取ることができない」「不動産を取得できない」「借金や保証債務も引き継がない」という効果があります。
相続放棄は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内」に行う必要があります。
相続財産を自由に処分したら、法律上「相続を承認した」ことに…
相続人が相続財産を自由に処分した場合などには、法律上「相続を承認した」とみなされることがあります。
これを「単純承認」といいます。民法第921条では、
●相続財産の全部または一部を処分した場合
●相続放棄期間内に放棄等をしなかった場合
などに単純承認が成立すると定められています。
単純承認が成立すると、その後は相続放棄が認められなくなる可能性があります。
固定資産税を支払っただけで「単純承認」になるのか?
実務上、固定資産税を支払ったという事実のみで直ちに単純承認と判断されるケースは多くありません。
なぜなら、固定資産税の支払いは、財産を取得する目的ではなく、不動産の維持管理や、滞納による延滞金や差押えを防ぐ目的で行われることが多いためです。
裁判例や実務でも、相続財産の保存行為や管理行為にとどまる場合には、直ちに処分行為とは評価されないことがあります。
そのため、「一度支払った」「督促が来たのでやむを得ず納付した」といった事情だけで、必ず相続放棄ができなくなるわけではありません。
注意が必要なケースもある
もっとも、固定資産税の支払い以外にも次のような事情がある場合は注意が必要です。
◆賃料収入を受け取っているケース
被相続人名義のアパートや貸家について、家賃を受け取った、自分の生活費として使った、という場合には、相続財産を取得したと評価される可能性があります。
◆不動産を売却したケース
相続財産である土地や建物を売却した場合は、典型的な処分行為です。相続放棄が認められなくなる可能性が高くなります。
◆預貯金を自由に使ったケース
葬儀費用などの必要経費ではなく、自分の生活費に充てたり、借金返済に使ったりした場合には、問題となることがあります。
◆空き家管理のために支払ったケース
最近増えているのが空き家のケースです。相続放棄を検討しているものの、「草刈りをした」「水道代を支払った」「固定資産税を納付した」というケースがあります。これらは一般的には財産の保存・管理行為として評価される余地があります。しかし、近隣への迷惑防止や建物の維持管理を目的とした行為であれば、直ちに単純承認と判断されるとは限りません。
相続放棄は、期限を過ぎたり、単純承認と判断されたりしてしまうと、取り返しがつかなくなる手続きです。また、固定資産税を支払ってしまった場合も「いつ支払ったのか」「誰のお金で支払ったのか」「ほかにどのような行為をしているのか」等によって結論が変わることがあります。
特に、不動産を所有している相続では、固定資産税の支払い以外にも管理状況が問題となることが少なくありません。
相続放棄を検討しているなら、早めに確認を
固定資産税を支払ったからといって、必ず相続放棄ができなくなるわけではありません。
固定資産税の納付は、不動産の維持管理のための行為として評価される余地があり、直ちに単純承認となるとは限りません。
しかし、家賃収入を受け取っていたり、不動産を処分していたりする場合には、相続放棄が認められなくなる可能性があります。
相続放棄を検討している場合には、安易に財産を処分する前に、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士
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