「自分が楽したいだけだよね」
会社を辞めてしばらくは、うまくいっていました。しかし、「朝、絶対に起きなければならない」という理由がなくなり、徐々に生活は乱れていきました。
起床は妻と娘が家を出たあと。昼近くまで寝てしまうこともしばしばでした。夕食を作ろうと思っても、面倒になってデリバリーや惣菜で済ませるように。運動も人と会うこともせず、かろうじて運用状況を見るためにパソコンを開くだけ。
髭を剃らず部屋着で一日を過ごし、昼間からお酒を飲む日さえありました。そんな日々に、妻が黙っているわけもありません。
「時間ができるから、家事をしてくれるんじゃなかったの?」
「やってるよ。洗濯をしてるし、掃除も……そりゃ毎日じゃないけどさ。俺だって意外と忙しいんだよ」
「なんで? 何が忙しいの? あなたが言っていた“FIRE”って何のため? 家族のためじゃなくて自分が楽したいだけだよね」
聡さんは、何もいえず黙り込んでしまいました。
しかし、ここまで言われても、聡さんは生活を整えることができませんでした。ほどなくして、妻はダイニングテーブルに離婚届を置いて、娘を連れて家を出たのです。
