名古屋――リニアに「国家機能」という第2の軸
名古屋は大阪とは違う形で化ける可能性がある。これまで名古屋の都市戦略を象徴してきたのは、リニア中央新幹線だ。東京―名古屋―大阪を一体の巨大都市圏として捉える構想の中心に名古屋を据え、名駅地区を中心に都市改造が進められてきた。
副首都政策が加われば、名古屋の評価軸そのものが変わる可能性もある。これまでは「東京まで短時間で行ける都市」だった。
それが、「東京が動かなくても業務を継続できる都市」になれば、不動産に付くプレミアムの意味が違ってくる。特に恩恵が予想されるのが名駅周辺の大型オフィスだ。
BCP機能を備えた新築・築浅ビルに第二本社や行政関連需要が入れば、既存の中小ビルとの二極化が一段と進む可能性がある。
住宅では、名駅への雇用集積が都心マンションだけでなく鉄道沿線や郊外住宅地にも波及しやすい。大阪以上に「駅を中心とした広域都市圏」の強化として現れるだろう。
名古屋にとって副首都法のインパクトは、副首都という称号を得ること以上に、リニア関連投資を「国家機能分散」という別の政策軸から再評価できることにある。
もっとも、大阪と名古屋が首都代替拠点として盤石なわけではない。首都直下地震で東京が危ないと指摘されるが、南海トラフ地震が発生すれば、大阪はもとより東海地方や中国・四国地方など西日本の広範囲にわたり甚大な悪影響が及ぶ。
副首都法も、東京圏との同時被災可能性が低いことを制度設計上重視している。つまり、大阪や名古屋において「副首都になるから経済的にも、不動産マーケット的にも盛り上がる」という現象は割り引いて考えざるを得ない。
福岡――再開発で生まれた「床」を埋められるか
福岡の場合は事情が異なる。天神ビッグバン、博多コネクティッドによる都市更新がすでに進んでいる。副首都法によって再開発が始まる都市ではなく、出来上がりつつある新しいオフィスや都市基盤を、何のために使うのかが問われる都市だ。
ここで鍵になるのが企業誘致である。行政のバックアップ機能や企業の第二拠点、IT・デジタル関連部門などを福岡へ誘致できれば、新築オフィスのテナント需要になる。
不動産市場の観点では、福岡にとって副首都法は「地価を上げる政策」というより、再開発で供給された床を埋める需要政策になる可能性がある。
住宅への波及も比較的早そうだ。福岡は博多、天神と住宅地との距離が短く、職住近接が成立しやすい。第二本社などによる高所得雇用の増加が実現すれば、中央区、博多区だけでなく周辺部の賃貸住宅や分譲マンションにも影響が及びやすい。
市川氏は、今回の制度によって「他の都市、福岡なども候補に手を上げてくるだろうし、さまざまな自治体が声を上げることは見えている」と大阪以外の都市も動き始めると読んでいる。
過去の首都機能移転論でも複数の候補地が競った。副首都についても自治体間の誘致競争が先行し、結果として制度の目的が曖昧になる恐れがあると警告する。
東京――「衰退」より機能の選別
では、副首都ができれば、東京の不動産市場は下落するのか。
そのシナリオは現時点では考えにくい。企業が第二本社を地方に置いても、経営、金融、国際ビジネス、情報などの中枢機能まで一斉に東京から消えるとは限らない。
むしろ起こり得るのは「東京に置くべき機能」の選別だ。
経営や海外企業との接点は東京に残し、バックオフィスやデータ、災害時代替機能を大阪、名古屋、福岡などに分散する。そうなれば、東京では丸の内、大手町、八重洲、虎ノ門など高機能オフィスの価値が維持される一方、築古・中小ビルとの格差が広がる可能性がある。
市川氏は、そもそも首都機能を移転しても東京一極集中の是正にはつながらないと指摘する。過去の首都機能移転論に東京都側から反対してきた市川氏ならではの見方だ。副首都法が東京にもたらすものは、「東京の終わり」ではなく、東京が担うべき機能を問い直す契機なのかもしれない。
