(※写真はイメージです/PIXTA)

アパートローンの審査は、物件単体の収支や担保評価だけでは終わらない。金融機関は借入人個人の金融資産や不動産、家族構成まで踏まえたバランスシート(B/S)と損益計算書(P/L)を独自に作成し、純資産や返済余力を厳しく検証している。具体的な数値例とシミュレーションを通じて、審査に落ちる本当の理由と、元銀行員だからこそ分かる金利交渉の余地までを解説する。

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アパートローンでは、借入人自身の「B/S」や「P/L」も審査される

金融機関では、購入不動産だけでなく、借入人の全体的な貸借対照表(Balance sheet、B/S(ビーエス)ともいいます)や損益計算書(Profit and Loss Statement、P/L(ピーエル)ともいいます)を作成して、純資産がプラスになっているか否かの検証および収支がプラスとなっているかの検証を行います。

 

アパートローンの借入を行う場合に個人情報のほかに以下の資料の提出を求められます。なぜ必要かといえば、これらがすべて金融機関で稟議書に記載するB/SおよびP/Lを作成するために必要な資料であるからです。

 

<審査の必要資料>
・確定申告書3期分 or 源泉徴収票3年分
・(資産管理会社があれば)決算書3期分
・所有不動産の固定資産税課税明細
・他のローンの返済予定表
・不動産のレントロール
・金融資産(預貯金・投資信託・株式・保険・金など)
・家族構成

具体例で見るバランスシートの作り方

例えば、以下のケースで検討してみましょう。

 

[図表1]

 

金融資産は預金5,000万円、有価証券等が1,000万円、保険(解約返戻金)1,000万円あります。

 

解約返戻金とは保険金額(例えば死亡などによる保険事故による金額)が3,000万円であったとしても、当該数字ではなく保険を中途解約した時に得られる金額をいいます。

 

したがって、一時払い保険(一括)で2,000万円支払い済であったとしても、審査時の解約返戻金が1,000万円であれば金融機関の作成するB/Sでは1,000万円です。

 

また、外貨建て保険であればその時の為替にも左右されます。

 

次に、不動産を見てみましょう。

 

例えば自宅を5,000万円で購入していたとしても、金融機関の評価は独自の計算を行う為、本件では路線価を基準とした評価を行い2,500万円(50%)となっています。

 

このケースではローンを完済しているため、B/Sにマイナスの影響はありませんが仮にローンが3,000万円残っているとすれば、自宅について▲500万円(担保評価2,500万円-ローン3,000万円=▲500万円)となり、B/Sを痛めることになります。

 

当然のことながら、ローンについてはそのまま残債額が計上されます。

 

審査資料として所有不動産の売買契約書まで求めていないのは、購入金額は審査において見ていないためです。あくまでも、審査時点における金融機関の担保評価が重要なのです。

 

負債については、本件では借入が一切ないため計上していません。その結果、このケースでは純資産が1億円あるという評価になります。

 

P/Lについても検討します。

 

[図表2]

 

年収が2,000万円程あり、税金や生活費などを除くと平均で年間740万円程度のプラスがあります。生活費の考え方は各金融機関で異なりますが、ここでは配偶者も給与収入があり、かつ2人の子供が学生であるとして生活費として年間300万円かかるとしています。

 

収入については割と実態に近い見方をしていますが、年齢によっては現在の収入に掛け目を入れたり、「ねんきん定期便」を追加で依頼して退職後の収入を検討したりもします。アパートローンは30年程度の長期に亘るため、借入人が中高年層の場合は給与収入に依存した組み立てが困難です。

 

また、配偶者や子供が高給与所得者の場合には連帯保証人になってもらうことで、当該収入を合算して検討することもあります。

 

ただし、連帯保証人は借入人(主債務者)と同等の責任を負うため、連帯保証人になってもらうためには、たとえ家族であっても説明を尽くす必要があるでしょう。

 

このように、一族全体の収入や家族構成、次期承継者などを確認するためにも家族構成の提出を求めています。

 

ここまではローンを調達する前の現状について見てきました。

実際の融資審査シミュレーション

具体的な融資の審査はここからです。

 

不動産収入が年間1,200万円、表面利回りが5.0%の物件(2億4,000万円)を購入したとします。銀行の担保評価は2億円、自己資金を4,000万円入れるとします。

 

購入後のB/Sは以下の通りとなります。

 

[図表3]

 

純資産が6,000万円であるため、審査としては問題ありません。

 

ただし、当初の純資産1億円からは▲4,000万円となっています。次の物件を購入した場合には純資産がマイナスになってしまい融資が通らない可能性もあります。

 

ここで留意する点は、繰り返しになりますが不動産の価格(担保評価)はあくまでも各金融機関が定めている点です。

 

購入した当事者は金融機関が作成したB/Sを見る機会がないため、このケースでは不動産の価値は購入金額である2億4,000万円であると考えており、資産(不動産)+2億4,000万円・(金融資産)▲4,000万円に対し、負債+2億円とバランスしている、すなわち純資産は減っていないと考えているはずです。

 

したがって、特に資産の内訳として不動産が多い場合には、「これだけ不動産を所有しているのに、なぜ融資が通らないんだ」と感じることもあるでしょう。

 

その理由の大半は、金融機関の担保評価にあります。

 

次に不動産購入後のP/Lを見ていきましょう。不動産収入1,200万円が追加されました。

 

[図表4]

 

上記収支に対してローン2億円を調達した場合の早見表が下図の通りです。左側に金利毎の返済額を入れています。

 

[図表5]

 

仮に、当該金融機関の審査金利が「4.0%」であったとすると平均でも+170万円程であるため審査としては問題ありません。

 

次に物件の収入単体で同じ早見表で見ていきます。

 

金融機関の収入に対する掛け目が70%であるとすれば、真ん中の列になり同じく金利4.0%を審査金利としていればマイナスとなっています。すなわち、物件の収支単体ではマイナスとなることから融資が通らないことになります。

 

[図表6]

 

このケースでは年収が2,000万円程ある高給与所得者であることから、融資の組み立てができていますが給与収入が低ければ成り立ちません。必要資料として確定申告書や源泉徴収票を求めるのはこのためです。

元銀行員の視点から

筆者が銀行員として働いていた頃には、融資の目標があったため高給与所得層を多く抱える不動産業者や税理士事務所などと接点を持ち、融資案件の持ち込みを依頼していました。

 

先述の通り、高給与所得者は審査の組み立てが比較的容易であり、かつ所有不動産が少なければB/SやP/Lを作成する手間が減るためです。

 

反対に、多くの不動産を持っており、それに伴い多くの借入があるようなケースでは不動産の評価や既存借入の精査に時間がかかるため、なるべく避けたいという気持ちが本音でした。

 

ただし、一度時間をかけて作成してしまえば、その後の稟議においては手間が減り、また他の金融機関からの既存借入の中から借換の提案をしたりと商売の機会を広げることにも繋がるため、最初から断ることはなく全体像を把握しながら作業を進めていました。

 

個人のみの場合は、まだ手間が少ないですが、資産管理会社がある場合には当該法人の決算書についても合算して稟議書を作成するため更に複雑になります。なかには複数の資産管理会社を持っている資産家もいるため稟議書の作成において多くの時間を割くこともありました。

 

また、本題から少し逸れますが、かつて「一法人、一金融機関」スキームなるものがありました。個人信用情報においては他に所有する資産管理会社が判明しないため、この点を悪用して「あくまでも法人は一つしかない」と金融機関を欺き、ローンを調達しようとする犯罪行為です。この手法により複数の金融機関から、それぞれの資産管理会社でローンを調達し一気に不動産の数を増やすことを目的としています。

 

最近では、他に法人がないことを誓約させたり法人登記などで調査するなどして不正を未然に防止していると思われます。このような行為は、金融機関の信頼を著しく失墜させるため、絶対に行ってはいけません。

アパートローンは「資産・収入・借入」の総合力で決まる

アパートローンについての説明を行いました。このように、アパートローンは事業性融資であり審査に時間がかかる点が住宅ローンとの大きな違いです。また、金利についても住宅ローンに比べて高くなることが一般的です。

 

ただし、金融機関は政策金利が上昇している近時においては預金集めにも力を入れていることから、預金の預け替えをすることでアパートローン金利の交渉を行うことも可能でしょう。各金融機関は預金による採算や、ローンによる採算、投資信託や保険による採算など総合的な取引で判断していることが多く、「預金をする代わりに、ローン金利を下げて欲しい」という交渉が成立する可能性があります。

 

住宅ローンとアパートローンの金利差を悪用する手段もあります。居住用と偽って住宅ローンを調達するも、当該不動産を賃貸に出し収益を得るという手法です。この場合も金融機関を欺くことになるため、絶対に行ってはいけません。

 

 

小俣 年穂
ティー・コンサル株式会社 代表取締役
不動産鑑定士
ファイナンシャル・プランニング技能士 1級
宅地建物取引士

 

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