「同居するか、しないか」だけではなかった選択肢
話を聞くと、芳江さんが最も不安に感じていたのは、家事そのものではありませんでした。
「夜、一人でいるのが怖くなったの。また転んだら、誰にも気づいてもらえないでしょう」
さらに、スーパーまで歩くのがつらくなり、入浴中に転ぶことも心配になっていました。
「哲也たちと住めば安心だと思ったの」
そこで恵美さんが尋ねました。
「お義母さんは、ここを離れてうちに住みたい? それとも、一人でいるのが不安なの?」
芳江さんは少し考えてから、
「一人なのが不安なのよ」
と答えました。
哲也さん夫婦は、すぐに同居を決めるのではなく、地域包括支援センターへ相談することにしました。相談した結果、まず要介護認定を申請。芳江さんは要支援1と認定されました。
その後は介護予防サービスを利用しながら、自宅での生活を続ける方法を検討しました。買い物は宅配を併用し、浴室と廊下には手すりを設置。緊急時にボタン一つで連絡できる見守りサービスも契約しました。
哲也さんがすべてを引き受けるのではなく、離れて暮らす妹とも相談し、通院の付き添いや訪問する日を分担しました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、要介護者等から見た主な介護者について、同居する家族が45.9%を占めています。そのうち配偶者が22.9%、子が16.2%です。また、同居する主な介護者のうち、男性75.0%、女性76.5%が60歳以上となっており、高齢の家族を高齢者が支えるケースも少なくありません。
哲也さん自身も66歳、妻も65歳です。
「母を安心させたい気持ちはあります。でも、勢いで同居を始めて、妻に負担が集中するのも違うと思いました」
芳江さんは当初、「施設に入れられるの?」と不安そうにしていましたが、現在は自宅で暮らしています。ただし、これで問題がすべて解決したわけではありません。
夫婦は芳江さんと、高齢者向け住宅や介護施設についても話し始めました。自宅での生活が難しくなった場合、どこで暮らしたいのか、費用をどこから出すのかも少しずつ確認しています。
「母さんに『一緒に住みたい』と言われたときは、うちに呼ぶか断るか、その二つしかないと思ったんです」
高齢の親から一人暮らしへの不安を打ち明けられたとき、家族との同居が適している場合もあります。一方、本人が何に困っているのかを整理すれば、介護保険サービスや見守り、住み替えなど別の方法が見つかることもあります。
親の生活が変わり始めたときには、家族だけで支え方を決めるのではなく、本人の希望と現在の生活状況を確認しながら、利用できる支援を含めて今後の暮らしを考えることが重要です。
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