「もう一生働かなくていい」36歳長男が会社を辞めた日
「俺、会社辞めることにしたから」
長男の健太さん(仮名・36歳)からそう聞かされたとき、父の隆夫さん(仮名・66歳)は転職するのだと思いました。
「次はどこに行くんだ?」
「どこにも行かないよ。もう働かない」
健太さんは大学卒業後、IT関連企業に勤務。30歳を過ぎてから収入が大きく増え、ピーク時には年収1,000万円を超えていました。
一方、生活は質素でした。家賃を抑えたマンションに住み、車も持たず、給料や賞与の多くを投資信託や株式へ回していました。
資産が6,000万円ほどになった36歳のとき、退職を決めました。
年間の生活費は約200万円。単純計算なら、運用益を考慮しなくても30年分に相当します。実際には資産の多くを運用しながら、必要な分を取り崩して生活する計画でした。
「人生を上がったつもりだよ。もう会社にも時間にも縛られない。これからは好きなことだけして生きるって」
隆夫さんには不安がありました。自分は60代まで働いてきただけに、36歳で仕事を辞めるという感覚が理解できなかったのです。
ただ、健太さんは自分で貯めた資産で暮らすと話しており、親に援助を求めているわけでもありません。
退職直後は楽しそうでした。
平日の昼間から映画館へ行き、混雑する週末を避けて旅行する。朝は目覚まし時計を使わず、以前から興味があった料理も始めました。
「会社員のころよりずっと楽しい」
父に会うたび、そう話していました。
金融庁のNISA特設ウェブサイト「資産形成の基本」では、投資には元本割れのおそれがある一方、長期・積立・分散によって価格変動と付き合いながら資産形成する考え方が示されています。また、必要になる資金や時期は人によって異なるため、家計管理とライフプランニングが重要だとしています。
健太さん自身もその点は理解しており、毎月の支出を記録していました。
ところが、退職から1年半ほど経ったころ、隆夫さんは息子の様子が以前と変わっていることに気づきました。
