「年間で結構かかってるね」68歳夫婦が車を手放した理由
「車が絶対に必要だと思っていたわけではないんです。だから、一度なくしてみようかと」
そう話すのは、68歳の秀一さん(仮名)です。同い年の妻・恵美さん(仮名)と2人で暮らしています。
夫婦が住むのは地方都市の住宅街。最寄り駅までは徒歩20分ほどで、駅前へ向かうバスも走っています。スーパーは徒歩15分、かかりつけの内科までは約2キロです。
秀一さんは65歳で会社を退職。その後は短時間の仕事をしていましたが、67歳で完全に仕事を辞めました。
現在の年金は夫婦で月約21万円。貯蓄は約2,200万円あり、住宅ローンも完済しています。
退職後、家計を整理したときに目についたのが車でした。夫婦が所有していたのは10年以上乗ってきた普通乗用車です。
「現役のころは通勤にも使っていました。でも仕事を辞めたら、乗るのは買い物と病院、それにたまに遠出するときくらい。ガソリンだけじゃなく、税金や保険、車検もあるでしょう」
次の車検が近づいたころ、夫婦は買い替えるか、手放すかを話し合いました。恵美さんが言ったのは、「今なら歩けるし、バスもあるよね」という言葉でした。
70代、80代になってから突然車のない生活になるより、元気なうちに慣れておくのもいい。そう考え、夫婦は車を売却しました。
運転免許証は返納しませんでした。
「運転そのものに不安があったわけではないので、免許まで返す必要はないと思ったんです。まず車だけなくしてみよう、と」
最初のころは順調でした。
スーパーへはリュックを背負って歩き、重いものはネットスーパーで注文。駅前へ行くときにはバスを使います。
「歩くようになったから、むしろ健康にいいね」
夫婦でそんな話もしていました。ところが、2、3ヵ月すると、小さな不便が積み重なるようになります。
特に困ったのが雨の日でした。スーパーまで徒歩15分という距離も、傘を差し、買ったものを持って帰るとなると負担が違います。
バス路線はあるものの、本数が限られているため、出かけたい時間に利用できるとは限りませんでした。
ある日、恵美さんが歯科医院へ行くため時刻表を確認すると、予約時間にちょうどよい便がありません。結局タクシーを利用しました。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、65歳以上が普段の外出に利用する交通手段は「徒歩」が50.1%で最も多い一方、「自分で運転する自動車」も46.6%に上ります。また、外出する主な目的では「近所のスーパーや商店での買い物」が80.4%、「通院」が69.9%でした。車が買い物や通院など日常生活の移動を担っている人も少なくありません。
