久しぶりに訪ねた父が驚いた、息子の生活
ある平日の午後、隆夫さんは用事があり、健太さんのマンションを訪ねました。インターホンを鳴らしても、なかなか出てきません。
しばらくして現れた健太さんは、まだ部屋着のままでした。
「寝てたのか?」
「昨日、朝まで動画見てたから」
部屋には宅配で届いた食品の段ボールが置かれ、カーテンも閉まったまま。以前は旅行や外食の話をしていた健太さんでしたが、最近はほとんど出かけていないといいます。
「旅行は?」
「別に、いつでも行けると思うと行かなくなるんだよね」
会社員時代の友人とも疎遠になっていました。
平日に誘っても相手は仕事。休日になれば友人には家族との予定があります。最初のうちは自分から連絡していましたが、次第にそれもしなくなりました。
隆夫さんがさらに驚いたのは、息子が以前よりお金に神経質になっていたことでした。
「相場が下がってるから、あんまり使いたくないんだよ」
資産は依然として5,000万円台後半あり、直ちに生活できなくなる状況ではありません。それでも給与という定期収入がなくなったことで、預金残高や株価の動きを以前より頻繁に確認するようになっていました。
「6,000万円あれば自由になれると思ってた。でも、減っていくのを見ると結構怖い」
36歳なら、今後の生活は数十年続きます。物価上昇もあれば、運用資産の価格が下落する時期もあります。金融庁も、株式や投資信託などの運用商品には元本割れのおそれがあると説明しています。
「お前、これがやりたかった生活なのか?」
父に聞かれ、健太さんはすぐには答えませんでした。
その後、健太さんは再就職ではなく、以前の仕事で得た知識を生かし、週2~3日程度の業務委託を始めました。
目的は収入だけではありませんでした。決まった時間に起き、人と話し、自分の知識を必要としてもらう機会が欲しくなったといいます。
「会社員に戻りたいとは、今も思ってない。でも、働かないこと自体を目標にしていたのは違ったかもしれない」
健太さんはそう話します。
現在は業務委託による収入で生活費の一部を賄い、資産から取り崩す金額を減らしています。平日に仕事が入ることで生活にも一定のリズムが戻りました。
十分な資産があっても、長い人生の支出をどう賄うのか、自由になった時間を何に使うのかは別に考える必要があります。
健太さんの場合、完全に仕事から離れるのではなく、「働く量を自分で決める」生活へ落ち着きました。会社を辞めて得た自由を手放さず、人との接点と収入を少し取り戻す。その形が、今の健太さんには合っているようです。
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